【解説】

課長たちが環境部まいり

 トヨタの強さを裏打ちするのが、社員やサプライヤーの環境意識の高さである。それを支えるのが、2015年から導入した新しい環境教育システムだ。従来は工場ごとに環境教育を施していたが、実務中心で体系的ではなかった。「サプライチェーン全体の環境リスクも高まっており、技術を通じて環境と社会課題解決を両立させることを社員に伝える必要性がある」と感じた環境部担当部長の石本義明氏が人事部に掛け合った。

 導入したのは、管理職になったばかりの課長が新入社員に環境を教える新システムだ。まず新任課長を社内から24人募集し、環境部が彼らに1日がかりで環境教育を行う。気候変動、生物多様性、資源循環、ステークホルダーのリスク、トヨタの環境の歴史など。その上でトヨタの環境リスクを6人グループで議論し、最後は発表してもらう。

 1カ月後の4月、今度は彼らが先生役となり同じ環境教育を新入社員約700人に行った。30人ずつ24クラスに分かれ、1人の課長が受け持つ。最後は新人に「環境に関する将来の夢」を書かせる。「走るほどCO2を吸収する車を作る」など多様なアイデアが飛び出したという。

2015年のエコプロ展は従来の約3倍の面積で4代目プリウスを展示(左)。新任課長が新入社員に環境教育を行う新システムを導入し、当事者意識を持たせた(右)

 「この環境教育を導入して課長たちが変わった。当事者意識を持つようになった」と石本氏は打ち明ける。研修を受けた課長が環境部に次々質問にくる。「開発中の技術はバイオ素材を使う。温暖化対策には効果があるが生物多様性に負荷をかける。どうしたらよいか」などだ。

 2015年秋、環境チャレンジ2050を発表したことで社内の雰囲気はさらに変わったという。「目指すべき姿が示されたことで、社内やグループ会社を1つの方向に牽引できるようになった」と石本氏は指摘する。

 チャレンジ2050の実現にはサプライヤーの協力も欠かせない。ガソリン車からハイブリッド車や燃料電池車に移行すると、走行時の環境負荷は減るが、部品・部材の製造時の環境負荷は増える傾向にある。サプライヤーの努力がなければライフサイクルCO2ゼロは達成できない。そこでサプライヤー向けの「グリーン調達ガイドライン」を2016年1月に5年ぶりに改訂し、チャレンジ2050とひも付けてサプライヤーが取り組むべきことを明記した。

 2016年4月から始まった「第6次5カ年プラン」では、チャレンジの1つ1つを5カ年プランに落とし込み、国内外のグループ会社や関連会社556社と共有した。それを基に各社も計画を立案している。

 「調達部が仕入先への依頼文に、安全と品質とともに環境を明記するようになった。原価中心だった調達部も変わった。みな一丸となって、やるべきことが分かった」(石本氏)

 長期ビジョンを通して社会と会社の未来像を示し、それを社員やサプライヤーの実務に落としてエコカーを開発していること。この意識改革がトヨタの強さの秘訣だろう。

 SMBC日興証券の自動車担当シニアアナリストの野口正太郎氏は、「2015年からトヨタは持続可能な社会を維持するために何をするかを真正面から語るようになった。EVもPHVも何でも開発している。一企業でそこまでやるのかという次元の違いを見せつけた」と指摘し、高い評価につながったと分析している。