聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

オフィス内で紙をリサイクルする新技術を実用化した。「紙文化を後世に残したい」という志が開発に結び付いた。

碓井 稔(うすい・みのる)
1955年長野県生まれ。79年東京大学工学部卒業後、自動車関連企業を経て、セイコーエプソンに入社。2002年取締役、2007年常務取締役、2008年から現職
写真/鈴木 愛子

――2015年12月に発表した、オフィス内で紙をリサイクルする「PaperLab(ペイパーラボ)」はユニークな新技術ですね。

碓井 稔氏(以下、敬称略) ええ、ただ紙をリサイクルするだけではなく、色を着けたり、白くしたり、いろいろできるんですよ。

――アニメの「ドラえもん」に出てきそうな、エプソンらしい技術だなと思いました。

碓井 世の中、なんで風潮に流されてしまうのかなと思うんですよ。

――というと。

碓井 私が天邪鬼(あまのじゃく)だからかもしれませんが、環境のためにペーパーレスにする必要があるといっても、みんな本当は紙を使いたいんだと思うんです。だったら、環境に負荷をかけない形で使えるようにすればいいんです。

時どきの技術的なトレンドに流されない

――私たちのような編集の仕事では、記事の校正はやはり紙の方が断然便利です。

碓井 スマートフォンやタブレットのような電子メディアの方が便利であれば、それを使えばいい。しかし、紙の便利さを犠牲にしてまで新しいものに換えるのはどうかと思いますね。私たちも、経営会議でタブレットやパソコンを使ってできるだけペーパーレスにしてきていますが、やはり使いやすい面と使いにくい面があります。

――社長直轄プロジェクトが生み出した技術ですよね。どのように開発が始まったのですか。

碓井 私たちは他社が既にやっている分野でもうちょっと良いものを作ろうと競うのではなく、自分たちの強みが発揮できるもの、自分たちにしかできないものにフォーカスして事業をやろうと決めています。プリンターにしても、コストをかけず、環境に負荷をかけずに印刷できるものにしたいので、インクジェットの技術を極める努力を続けています。

 「PaperLab」については、開発が始まったのは2011年です。紙は非常に使いやすいし、馴染みもあるし、思考を助けるし、創造性も高めます。こういうものをよりいい形で後世に残していかなければならない。環境問題が課題なら、自分たちで使った紙は自分たちで何回も再生して使えるようにするのが一番いい。そういうことを多くの人が望んでいるのではないかと思ったわけです。

――碓井社長ご自身がですか。

碓井 勝手な思い込みかもしれませんが、思ったんです。大げさな言い方をすると、大きな志を持って、そういう世界を創ろうと言ったんです。

――どのように着想したのですか。

碓井 突飛でもなんでもなく、素直に考えているだけです。ペーパーレスにしなくてはいけない課題があるのなら、それを解決しようというのが出発点です。

 その時どきの技術的なトレンドに流されるのではなく、自分たちの未来を真摯な気持ちで考え、想像しないといけないと思います。世の中で期待されていることをまず見て、新しい価値を創り出すために自分たちの技術をしっかり使う。そういうプロセスを踏まないと、独りよがりの技術開発になっていってしまいます。

――利己的な開発と、独創的な開発は紙一重だと言われていますね。

碓井 エプソンがこんな技術を開発したと誇示する姿をイメージするのではなく、使った人に喜んでもらっている姿をイメージして自分たちの技術を精一杯使う。利己的か、独創的かは志の持ちようで分かれるのではないでしょうか。志が大きければ大きいほど良い製品ができると思います。