パリ協定は「成功の始まり」

――2015年末にパリ協定がまとまり、途上国も含めて温暖化対策を進めることになった意味は大きいですよね。

豊田 京都議定書に参加していなかった米国、中国、インドが枠組みに参加したことが大きな成功です。ただ、各国の目標を合計してもCO2排出量のトレンドは低下しません。特に途上国は減らすという目標を立てたわけではありません。むしろ重要なのは、今後5年ごとに目標を見直していく中で、日本などの先進国が途上国に技術や資金を提供しながら、デカップリングに最大限近づくような努力をしてもらうことです。そういう意味では、「成功の始まり」といえるのかもしれません。

――パリ協定には、「1.5℃」や「今世紀後半に実質排出ゼロ」といった、これまでの「2℃未満」よりもさらに高い目標も書き込まれました。

豊田 温暖化対策を現実的に見た方がよいと考えています。「2℃未満」をあきらめる必要はないけれど、(2℃目標に対応する)温室効果ガス濃度を450PPM以下に抑える目標に向かって直線的に低下していけると考えるのは幻想でしょう。オーバーシュートシナリオと言っていますが、途上国の成長を許容して一時的に温室効果ガス濃度が上がってもその後に一緒になって下げていくシナリオを描く方が現実的です。1.5℃といった極端な目標は現実的ではありません。

――温室効果ガスを大量に排出する化石エネルギーの関連産業から投資を引き揚げるダイベストメントの議論も活発になっています。

豊田 ある国際会議で金融関係の方から「パリ協定の合意ができたので化石エネルギーは不良資産になるため、融資に際しての規律を強化しよう」という発言があり、私はそれは「間違いではないか」と反論しました。原子力や再生可能エネルギーとともに化石エネルギーをバランス良く使っていくことが重要なのです。2030年に向けた日本の温暖化対策の目標にしても、一次エネルギーの75%は化石エネルギーです。ましてやこれから成長する途上国にとっては安く、安定的に調達できる化石エネルギーは欠かせません。途上国に化石エネルギーを使うなと言うのは、成長するなと言っているのと同じです。いかに効率的に使うかが重要です。ことに石炭に関しては超超臨界といった最新技術の利用が必要になりますが、途上国に高い導入費用がかかります。ならば、国際機関は融資しようというのが正しい方向ではないでしょうか。化石エネルギーが不良資産だというのは、明らかに言い過ぎです。

 私はいつも言っているのですが、万能なエネルギーはありません。エネルギー安全保障(Energy Security)とエネルギー効率・コスト(Economic Efficency)、環境・温暖化対応(Environment)、それに安全性(Safty)を加えた「3つのE+S」を考えて、再エネ、原子力、化石エネルギーをバランス良く使わなければなりません。