マルチステークホルダーによる信頼性が力

モヒン 2つあると考えています。1つは、1997年以来20年間にわたってガイドライン作りを進めてきた歴史があり、世界中で最も広く使われていることです。例えば「フォーチュン500」(全米上位500社)の9割がサステナビリティに関する情報を開示していますが、そのうち72%はGRIのガイドラインを採用しています。あるいは50カ国の100以上の政策にGRIのガイドラインが活用されています。

 もう1つが非常に重要なのですが、マルチステークホルダー・アプローチを取り入れることです。GSSB(GRI国際サステナビリティ標準化ボード)のメンバーは、企業だけでなく、市民団体や労働組合、研究機関などの代表で構成されており、こうした構造によって独立性を保ち、信頼性を高めています。

■ 20年の歴史を持つGRIの活動
現在広く活用されている「GRIガイドライン第4版(G4)」から、分野ごとの開示内容をモジュール化して組み合わせる 「GRIスタンダード」への移行を進める

――GRIスタンダードの採用企業は増えていますか。

モヒン 発行してからまだ6カ月しかたっていません。したがってまだ少ないです。先行してプログラムを実施しているのは27社です。ただ、2018年までに情報を開示するすべての企業がスタンダードに移行することになっています。

――SDGsの情報開示に関してはいかがですか。

モヒン 国連グローバル・コンパクトと共同で企業のSDGsへの貢献度を測る物差しを開発中です。ご存知のようにSDGsは17のゴールと169のターゲットを定めたとても幅広い目標です。ですから、企業にとって意味のある形でターゲットを絞り込み貢献度を測れるようにすることが第1のステップです。第2のステップは、企業が自分の手で評価できる仕組みにすることです。単に現状をマッピングするだけではなく、どこに問題があるのか、どのような対応が可能なのかまで掘り下げられなければなりません。最後のステップは、SDGsに取り組む企業が投資家に評価される仕組みです。

 SDGsの目標年は2030年です。もう5000日もありません。こうした仕組みを急いでつくっていこうと考えています。

米国の環境政策、前進と後退を繰り返す

――金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が「気候変動関連の財務情報開示ルール」の報告書をまとめるなど、ESGなどの非財務情報の開示が大きな流れになっています。

モヒン サステナビリティに関する情報を財務情報に統合していく動きで、私たちも支持しています。(中間報告で示された)11項目の開示内容のうち8項目をGRIでカバーしています。最終的には、7月にドイツのハンブルクで開かれるG20首脳会議(サミット)で発表される予定です。

 こうした動きをもう少し幅広い視点で考えると、これからはハーモナイゼーション(国際的に協力し標準化していくこと)が重要になってきます。標準が多すぎると、活用する側の企業が混乱してしまいます。GRIは米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)とパートナーシップを組んでいますが、私がGRIのCEOとして力を入れていきたいと考えている大きなテーマがハーモナイゼーションです。

――モヒンさんは米環境保護局(EPA)での勤務経験があります。トランプ政権によるEPAの予算削減は、米国の環境政策の後退につながりませんか。

モヒン 後退すると思います。しかし、一時的なもので長く続くとは思いません。私がEPAで働いたのは1980年代のレーガン政権の時ですが、同じような予算の削減が何度もありました。その度に、環境保護を重視する国民やNGO(非政府組織)からの圧力が強まり元に戻るといったことを繰り返しています。

 さらに、30年前と現在を比べると大きく重要な変化が起こっています。当時は、企業と環境保護派の間に対立の構図がありましたが、現在は企業が環境保護の側に回ってきて、自主的に取り組みを進めるようになっています。この傾向は今後も変わらないと思います。

――米国は「パリ協定」から離脱すると思いますか。

モヒン 米国の多くの企業が関心を持っていることだと思います。ゼネラル・エレクトリック(GE)のような大手をはじめ何百という企業が、パリ協定にとどまるよう訴える書簡を政府に送っています。政府よりも企業のほうが前向きになっている非常に興味深い状況ですが、先は見通せません。仮に脱退したら悲劇ですが、その時にサステナブルな企業は米国のコミットメント(約束)を貫くのではないでしょうか。小さな国を超える経済規模を持ち、サプライチェーンが世界中につながっている企業が多数あります。こうした企業は、国を越えてサステナビリティを考える必要があります。