“アホ”を探せ

――「FUSION20」のように、技術開発も5年後をゴールに設定しているのですか。

十河 これは難しいところです。5年後ぐらいにどう貢献できるかというのはあります。しかし、5年ぐらいで生み出せる技術はそんなに大したものかという思いもあります。本当に世の中を引っ張る先進技術は10年とか20年単位で出てきます。長期的な技術開発への挑戦を同時にやらせなければならない点が難しいのです。

――実際にはどうするのですか。

十河 “アホ”を見つけろと社内で言っています。“賢いやつ”が10年先をやらないでしょう? 熱意があって10年先にかける人がいないとだめです。またそういう人を生かせるマネジメントをしないといけません。現在、長期的な技術開発のテーマをいくつか持っていますが、それをどこまで本気になってやらせるか、資源とのバランスです。

――バランスはどうとるのですか。

十河 どの経営者に聞いても、それは「辛抱」です。TICのオープンの時に富士フイルムホールディングスの古森(重隆、会長・CEO)さんとお話ししましたが、「大事なのは10年先をどこまでやるか」とおっしゃっていました。ぼくも全くその通りだと思います。10年先、20年先の技術をどこまでやれるかです。

 時代の先を行く技術とは何か。例えばワインセラーなどに使われている電子冷却のペルチェ素子があります。今は小さな容量しかできないのですが、配管やコンプレッサーなどがいらなくなるので、大容量にできたら空調の概念が大きく変わってしまいます。昔からある技術で、原理はみんな分かっています。ただ、量産化や大容量化するのは本当に難しい。しかし、ここは革新が生まれるところですから、うちも研究を続けさせています。他社が実現したら大変なことになりますから。

 あるいは、米国のシリコンバレーで見つけてきたのは、引っ張ったり縮めたりしたら熱が出る素材です。他にも、温度差で発電する材料もあります。こういった材料系から、ものすごい革新が生まれる可能性があると考えています。

――3年後の利益目標と長期的な研究開発がせめぎ合った場合はどうするのですか。

十河 それは、その時の判断です。許される資源と世の中の環境、ライバルの動向などをトータルで判断して決めていくしかないですよね。

――あらかじめ線引きできるものではない。

十河 そうだと思いますね。TICをつくっていろいろと取り組んでいますが、どういうテーマを取り上げるか、何にゴーをかけて何をストップさせるかは本当に難しいです。

――代替フロン(HFC)に対する規制が強化され、家庭用エアコンではダイキン工業が製造している「R32」への切り替えが進んでいます。これは長期的な技術開発がうまくいった例ですか。

十河 R32は昔からあった冷媒で、空調に使ったことが大きいと思います。微燃性の問題があるので、それをクリアするための冷媒を制御する技術が重要でした。現在は家庭用エアコンなど容量の比較的小さなものが主流ですが、今後は業務用エアコンを少ない冷媒で動かすような技術を活用して、R32化をできるだけ早く進めたいと考えています。

――記者発表では、R32は「ベスト」ではなく「ベター」な技術と説明していました。

十河 ベストとは言い切れませんからね。(地球温暖化係数がより低い)自然冷媒やHFO(ハイドロフルオロオレフィン)の混合冷媒も視野に入れておかなければなりません。次世代の冷媒開発は、空調と冷媒の両方の事業を持っているうちの使命でもあるし、先進的な事業を持続させるチャンスでもあります。

――HFCへの世界的な規制強化は、他社と差をつけるチャンスになります。R32に関しては、まず新興国で、続いて先進国でも技術を開放しました。

十河 新しい冷媒をうちが開発しても、技術を独占するのではなく、R32と同じようにオープン化していかないといけないでしょうね。地球温暖化はうちだけでどうこうするような一企業の問題ではないと思っています。

写真/行友 重治