恐い米当局の贈賄摘発

――具体的にどのようなことですか。

 グローバル企業にとって現在、大きなリスクは何かというと、1つは独占禁止法、もう1つは海外腐敗行為、すなわち公務員への贈収賄ですね。この2つは罰金や制裁金などのペナルティが桁違いに大きいです。

 私が主に取り組んでいるのは、海外腐敗の問題にいかに対処するかです。この問題は、人権、労働、環境のすべてに関わってきます。新興国にもこれらに関する法律はありますし、特に環境では先進国の法律をコピーしてそのまま取り入れているような状況で、規制の枠組みががっちりできています。しかし、執行する段になると、役人に大変な裁量権があってカネを渡せばどうにでもなってしまいます。人権にしても、環境にしても、腐敗の問題をどうにかして初めて法による統治が可能になると思うのですが、要求する側と渡す側の関係が成り立っている限り、改まりません。解決に向けて相当に力を入れなければならない分野です。

 日本には不正競争防止法があり、域外適用も可能なのですが、ほとんど執行されたことはありません。日本の法律を念頭に置いている企業は、内部統制の仕組みをつくる上で不正競争防止法をほとんど意識していません。それで済むのかというと違います。グローバル市場においては法律を執行する力を持っている国が執行します。日本企業がある日突然、米国や英国の法律の域外適用を受けるという事態が生じています。

――新興国での日本企業の贈賄を、米国の司法省(DOJ)などが取り締まるのですか。

  例えば米国の場合は、様々な理由をつけて柔軟に法律を執行してきます。国際サッカー連盟(FIFA)の汚職事件をDOJが起訴した事件が象徴的です。米国の企業が賄賂を渡したのであれば海外腐敗行為防止法(FCPA)の贈賄罪になります。しかし、FIFAの幹部は公務員ではないのでFCPAは適用されません。そこでDOJは、マフィアなどを撲滅するためにつくったRICO(リコ)法などを使って摘発するのです。RICO法は米国内で犯罪行為があった場合に適用されるので、例えば米国のテレビ会議を使って謀議したり、金融システムを使って送金したりすると犯罪行為に該当します。

 FCPAには共謀罪もあります。例えば、米国企業や米国に上場している企業の子会社などとジョイントベンチャーを組んでいる場合に、提携した米国企業に犯罪行為があると、米国外の企業にも共謀罪が適用されます。ナイジェリアの贈賄事件で日揮が刑事責任を問われたのも共謀罪です。「この会社を挙げるぞ」と決めると、DOJは様々な手を使って摘発の準備をするのです。

 過去、最も大きいペナルティは、独シーメンスが2008年に受けたものですが、米独両国の当局に8億ドルずつ合計16億ドルの制裁金などが科されています(下の表)。それだけではなく、内部調査のためにシーメンスは14億ドルの費用を支出しています。グローバルに展開している日本企業の担当者は、贈賄の問題に神経をとがらせるようになっています。

■ 米国による罰金・制裁金の上位10件
出所:FCPA Blog、2014年12月23日を基に作成 (1ドル=120円換算)
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――米国の越権行為ではないのですか。

 本来であれば、日本側は主権侵害だと主張できるはずです。しかし、1999年に経済協力開発機構(OECD)の外国公務員贈賄防止条約が発効しているので、「悪いことをしている企業を取り締まれないあなたの国の検察に代わって法を執行しているのだから逆に感謝してほしい」という理屈が通ってしまい、こちらは反論できない立場です。