斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

プラスチック成形加工の技術者として、探索研究に従事した。環境という軸で製品を市場ニーズに結び付けようと接点を探る。

阿部 弘(あべ・ひろし)
1958年東京都生まれ、83年筑波大学大学院理工学研究科修了、同年積水化学工業入社、96年セキスイ・ケミカル・ヨーロッパ技術開発部長、2000年積水インテグレーテッドリサーチ主席研究員、2012年から現職

 38歳までプラスチック成形加工の研究者として過ごしてきたからだろうか。こちらからの質問に落ち着いた口調で、誠実に答える姿がとても印象的だった。

 入社後、中央研究所の配属となり、20代で上司とともに難成形プラスチックの分野で世界初となる成形加工技術を確立した。30歳の時には社内の研究所が開発した表面改質材を改良し、化学メーカーに特許を譲渡するなどの成果を上げた。その後、2度にわたり特許出願数が社内で1位になるなど、研究に打ち込む日々を過ごした。

 転機となったのは、1996年、セキスイ・ケミカル・ヨーロッパへの転勤だ。ドイツと英国に合わせて3年半暮らし、異文化に触れた。なかでも98年にドイツで開かれた世界最大のプラスチック関連の展示会「Kメッセ」は忘れられない思い出となる。

 初めて製品ではなく、研究所にある5つの技術を展示した。研究中の技術が欧州市場で通用するか、その可能性を探ったのだ。結果は大成功で、どのように研究を進めればよいかの市場調査ができた。出展した技術の1つはその後、耐火製品である「フィブロック」になったという。

 研究者としては新しい材料や方法を探す探索研究というジャンルに身を置いた。「どんなに優れた技術であっても、市場に受け入れられなければ日の目を見ない。研究のシーズを市場のニーズに結び付け成果を上げることの大切さを痛切に感じた」と振り返る。この思いが、Kメッセでの技術展示の原動力になった。

 帰国後は、新事業を企画するために設立された新会社、積水インテグレーテッドリサーチで、12年間、海外の技術情報などを集めながら将来の新規事業を提案する仕事に携わった。

 2012年、環境経営グループ長への辞令は青天の霹靂だったが、「市場のニーズに結び付けたい」との思いは変わっていない。「環境という軸で市場のニーズに合った製品をどんどん世の中に広めていきたい」との言葉には力が込もる。

 積水化学工業には優れた環境性能を持った製品を社内認定する環境貢献製品という制度がある。毎年12月のエコプロダクツ展で、同社はお薦めの環境貢献製品をお披露目する。2015年は、自発光中間膜を使って自動車のフロントガラスに文字や図を全面表示できるシステムを展示し、自動車メーカーから好感触を得ることができた。

 この自発光中間膜の開発のニュースは同展の直前にプレス発表をしたため、注目を集めた。展示会を効果的に使って新製品を売り出す。ドイツから東京に場所を変え、阿部さんの挑戦は続いている。