聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

統合報告書「共創経営レポート」の制作プロジェクトを自ら引っ張った。顧客や社員、投資家と共に新しい価値の創造を目指す会社の姿を示す。

青井 浩(あおい・ひろし)
1961年東京都生まれ。83年慶応義塾大学文学部卒業、86年丸井(現・丸井グループ)入社。91年取締役営業企画本部長、95年常務取締役営業本部副本部長兼営業企画部長、2004年副社長などを経て2005年4月から現職
写真/尾関 裕士

――2016年4月にオープンした九州初の店舗、博多マルイを見ました。各階に配置した休憩スペースなど居心地の良さが印象に残っています。オープンから12日間で来店客が100万人を突破したそうですね。

青井 浩氏(以下、敬称略) おかげさまで過去最高記録です。

顧客との対話でつくった「博多マルイ」

――オープンまで2年間かけ、「延べ1万5000人以上の顧客の声」を聞いて店舗づくりを進めたことが好調の原因ですか。

青井 そうだと思います。これまでもやってきていて、部分的にうまくいったことはありますが、店づくり全体として、特にテナントの構成や品揃えなど商業施設の中心になるところでお客さまの声を反映したり、一緒につくるということがなかなかできなかったんです。通路を広く取ったり、休憩スペースをたくさん作ったり、トイレをきれいにするといったところは比較的早くから取り組めたのですが、商売のど真ん中のところで一緒につくるということが、要は私たちができなかったのだと思います。お客さまからはどんどん言っていただいたのですが、それをやるのは私たちが心配になってしまう。あるいは、それをやったらマルイではなくなってしまうと不安になる。

――ファッションのマルイではなくなってしまう。

青井 そうですね。今、都心の店舗ではファッション・アパレル比率が7~8割です。しかし、今回は飲食や雑貨を増やし、ファッション・アパレルは都心にもかかわらず3割まで下げたのです。私たちにとってはとても不安なことでしたが、逆にそこまで突き進めたので新しいマルイがスタートできたのだと思います。

――特に印象に残っているのは、5階にあったギフトステーションです。子供の写真などを使ってオリジナルのギフトボックスをその場で作れるサービスには、買い物をするだけではない楽しみがありますね。

青井 長期的に消費が「モノの豊かさ」から「ココロの豊かさ」にシフトする傾向がどんどん強くなっています。買うだけでない楽しみとは、まさに「ココロの豊かさ」だと思うんですね。ただ、「ココロの豊かさ」は概念的には分かるけれど、具体的に何なのかは非常に分かりづらいところがあります。何が求められているのかは、お客さまと一緒に取り組むことで具体的に分かってくるということなんだと思います。その最たるものが食品や飲食で、もう少し特化したものがギフトステーションのようなものなんだろうと思っています。

――顧客というステークホルダーとの対話を進めた結果、ファッションを中心とした若い世代だけでなく、もっと幅広い世代が生活全般で楽しめる、理想に近いお店になったということでしょうか。

青井 若者向けファッションの賞味期限は短く、すぐに厳しくなってしまいます。若い人の人口が減り、それ以上に非正規労働が増えて所得が減ってしまいました。マーケットは過去20年間で半分以下になってしまいました。ファッションから通信や飲食などへのシフトも進んでいます。ですから、若い人だけではなく、全年代のすべてのお客さまに支持してもらえるようにしたいというのが最初の目標でした。すべてのお客さまという考え方を進めると、例えば若い人向けの商品でも、みんなボリュームゾーンばかり狙っていて、ずっと見過ごされてきた部分がありました。非常に小さなサイズや逆に大きなものです。そこに目を向けていくことがすべてのお客さまということです。さらに、健常者しか来られない店ではだめではないかと考えて、電動車いす用のコンセントを用意しました。

顧客と対話を重ねて店舗開発した博多マルイは過去最高の来客(左上)。「ギフトステーション」など単なる物販ではないサービス拠点を設置した(左下)。各フロアに休憩スペースを設け(右上)、携帯電話や電動車いすの充電に使えるコンセントまで用意している(右下)