斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

農水省の官僚出身、50代半ばでビジネスの世界に飛び込んだ。ISO26000にCSVやESDを重ねた経営戦略を打ち出した。

笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)
1953年北海道生まれ。76年東京大学法学部卒業、77年農林省(当時)入省、2007年関東森林管理局長を経て2008年退官、同年伊藤園入社、2010~14年同社取締役、2014年7月から現職

 50代半ばで農林水産省の官僚から伊藤園に入社した。民間企業で働く官僚出身者には調整型の人が多いが、時に新しい仕事を作り上げる行動的な人がいる。笹谷さんは、後者の典型的な人である。

 農水省時代は国内外の食糧・農業問題に携わった他、在米日本大使館で一等書記官を務めるなど国際的な仕事を数多く経験した。3年間の環境省出向時代には、小池百合子環境大臣(当時)のもと政策評価広報課長などを務めた。この時の経験で、「持続可能性という考え方の重要性と、分かりやすく情報を発信することの大切さを学んだ」と振り返る。

 伊藤園では経営企画部長などを経て、CSR推進部長に就いた。この時、転機が訪れる。2010年に発行した社会的責任の国際規格であるISO26000との出合いだ。「本業の中でいかに社会や環境問題に貢献するかが示されていた」ことに心が動かされたという。その後、独学でISO26000を研究し、官僚時代の国際経験を生かして2013年末に「CSR新時代の競争戦略 ISO26000活用術」を上梓した。

 早速、この国際規格を中期経営計画(2012~2014年)に組み込み、CSR(企業の社会的責任)報告書も組織統治、人権、環境などISO26000に書かれている7つの中核主題に沿った構成に一新した。中核主題と伊藤園のCSR目標を関連付けた一覧表も掲載し、それぞれの目標の進捗状況を可視化できるようにした。

 2014年のCSR報告書は、「進化する経営戦略」というタイトルのもと、「共有価値の創造 CSV経営」「人づくり・地域づくり ESD」「社会対応力 CSR」という興味深い章立てを取っている。読みやすいレイアウトで読み物としても面白い。環境省で広報を担当した経験が生きているのだろう。

 笹谷さんはISO26000の7つの中核主題を通して、社会対応力を付けるとともにリスク管理を行う。その上で事業を強化すべき分野においてCSV(共有価値の創造)で競争力を高める。この2点をよく理解する人材を育成するためESD(持続可能な開発のための教育)を活用するという新しい経営戦略を打ち出した。そして、こうした考え方を社外にも広めようと各地で講演活動を行っている。

 伊藤園は、2013年に独自性のある企業戦略を実行している企業を表彰するポーター賞を、2015年5月には日経ソーシャルイニシアチブ大賞の企業部門賞を受賞した。企業部門賞では耕作放棄地を再生して茶の産地に育てる取り組みを実施している点などが評価された。外部からの評価も高まってきたが、CSR活動は全社員の力が結集しないとできないとの思いが強い。最後は、「『チーム伊藤園』で頑張っていきたい」と締めくくった。