「鎌倉投信ファミリー」になりたい

神奈川県鎌倉市にある古民家が本社。日本の良さが実感できる社屋で働く
写真/鈴木 愛子

――投資先の企業の人がメガバンクの人から「結い2101の投資先に選ばれてよかったですね」と言われたエピソードが書籍で紹介されています。鎌倉投信が投資先に選んだことで、その企業の信用力が高まるということですね。

新井 ぼくらのゴールは、株式を上場する以外の選択肢を企業に提供できる存在になることです。上場しないと資金調達できないという環境を変えていけば、金融業として社会的な意義がでてくるのではないかと考えています。(投資先の1つである)日本環境設計の岩元美智彦会長は、「鎌倉投信ファミリーになれてうれしい」と言ってくれました。日本環境設計には大手のベンチャーキャピタルが投資しているので、うちからの投資を受けなくてもよいはずなのに。それがぼくらのバリューではないかと考えています。

――「いい会社」に投資するといっても、株価の予測はしないし、「経営者に資質があれば数字は後から付いてくる」と言い切っています。そんなどんぶり勘定で大丈夫なのですか。

新井 それについては、結果の数字を見ていただくしかありません。2013年には、格付投資情報センターが運用効率の高い投資信託を表彰する「R&Iファンド大賞2013」の国内株式型部門で最優秀ファンド賞に選ばれました。2014年も優秀ファンド賞に選ばれています。社会に求められる会社に投資することでリターンを上げられる時代になったことを示しているのではないでしょうか。

――投資して失敗したことはないのですか。

新井 当然あります。「いい会社」は、会社の大小に関係なく存在しますし、特にうちはベンチャー企業に投資する機会が多いですから。現在、61社に投資していますが、他社に買収されたケースも含めてこれまでに投資先からはずれた会社が6、7社あります。

 日本でなぜベンチャー企業に資金が回らないのかというと、投資家が失敗したくないからです。投資先が倒産したりすると不安になるので、大企業に投資をする。しかし分散投資している複数の会社が全体として利益を上げればよいのです。中には価値が半分になったり、ゼロになったりする企業もありますが、倍になっている企業の方が多ければ全体のリターンは高まります。全体としてお客さまに利益をお返しし、自分たちが目指そうとする社会に近づいているのであれば、多少の失敗はあってもいいと思っています。

■ 鎌倉投信が役立っていると投資先が感じていること
注:2016年8月、投資先60社に聞いた。有効回答は34

「いい会社」は数値化できない

――「いい会社」は数値化できないとも明言しています。

新井 数値化できないですよ。「この会社は障碍者のことを考えていない」「この会社は女性のことを考えていない」といったネガティブ・スクリーニングに関しては数値化できます。しかし、その会社で働いている人のモチベーションがどれだけ高いか、地域から信頼されているかといったポジティブな面は数字には出てきません。そういう見えないところに、その会社の本当の良さがあるわけです。それを見極めるために経営者と話をし、そこで働いている人たちの姿を実際に観させてもらいます。

――「見えざる資産」という言い方をしていますね。投資先を選ぶときには、その会社のイベントなどにこっそり参加することもあるそうですが、社員のモチベーションに最も注目するのですか。

新井 私はよく会社を自転車に例えて説明します。経営者は乗り手で、後輪は社員です。経営者はハンドルを握り、ペダルをこいで力を伝えようとします。ここでチェーンが空回りしていると、自転車は前に進みません。

 前輪も大事です。それは何かというとビジネスモデルで、会社の進むべき方向を決めます。乗り手、前輪、後輪の3つの要素が非常に重要です。中でも最も見えにくいのが社員のモチベーションなので、実際に観に行くのです。特にベンチャー企業は個々の社員に依存している部分が大きいですから。社員の一人ひとりと飲みながら家族の話をすることもあります。

――そこまでして「いい会社」を見極めても、失敗することがあるのですか。

新井 人のやることですから、残念な結果になることはあります。最初の想いはよかったけれども、それを持続するのは大変です。結果的に変わってしまうことがあります。

――「いい会社」はどのように探してくるのですか。

新井 いろいろな調べ方がありますが、最も信頼できるのは、「いい会社」の経営者からの情報です。1万7000人のお客さまからも「いい会社がありますよ」という情報が直接届きます。それから、社会起業家の育成もしてきました。情報が多くて整理するのに困るぐらいです。