監査では解決しない

――そういう地域で原材料を調達しなければならない企業もあります。人権方針を策定し、サプライヤーにCSR調達の質問書を送付して回答をチェックし、サプライヤーの工場を監査するなど人権対策に取り組んでいる日本企業も既にあります。どんな点に注意したら足元をすくわれないでしょうか。

ラギー 注意しなければならないのは、監査は人権デューデリジェンスとは違うということです。中国のことわざに「豚を太らせようとして、何度体重を測っても豚は太らない」というものがあります。太らせるためには測定ではなく、やるべきことがある、という意味です。

 監査ではサプライヤーの行動は改善できません。大切なのは監査ではなく、包括的な「人権デューデリジェンス」の実施です。人権デューデリジェンスとは、人権リスクを評価し、優先順位を付け、対策し、是正や救済を行うという仕組みで、これを社内プロセスに組み込み、情報を開示するというPDCA(計画-実行-評価-改善)サイクルを継続的に回すことです。

 人権方針の策定や、実施のためのガイダンス、様々なレベルでの人々のトレーニングも必要になります。企業のトップから現場まで包括的に実行しなければなりません。

 例えば企業が新規プロジェクトを始める場合や既存プロジェクトを拡大する場合、地域の人々にどのような影響を与えるかを評価する必要があります。新工場の建設で川の流れが変わらないか、村を移転させることにならないか、ルールに従って行われるかを評価しないといけません。住民への説明は適切か、補償は適切か、移転後も住民は従来と同じ環境で暮らせるか、コミュニティの社会機能は失われないか、などを評価して対策を取らないといけません。

 人権デューデリジェンスは複雑であり、ほとんどの企業ができていません。しかし、実施する企業が増えているのも事実です。