間違ったときの姿勢が重要

――人権デューデリジェンスの実施で評価できる企業はありますか。コツはどこにありますか。

ラギー 世界最大級の消費財企業である英蘭ユニリーバはよく取り組んでいます。1次サプライヤーだけで約1万社あり、サプライチェーン末端の小規模農家は150万軒もあります。把握するだけでも大変ですが、マネジメントするのはもっと大変です。そこに挑戦しています。

 マネジメントのコツは中央集権的にトップダウンで実施しないことです。大企業の場合、地域や製品別などのクラスターに分けて人権対策を実施することがコツです。各クラスターがその下のクラスターに対してマネジメントを行い、人権のトレーニングを施します。地域や製品といったクラスター別に、人権配慮の計画の実施状況やコミュニティとの関係の適切性などを確認します。

 加えて重要なのは、企業が間違いを起こしたときです。間違いを正直に認めるかどうかで企業は投資家や社会から評価されます。隠したり否定したりせず早く対応すること、適切な補償をすること、再発防止の姿勢を打ち出すことで、コミュニティとの信頼関係が生まれます。

 すると今度はコミュニティ側から企業に報告してくれるようになります。「こういう問題が起きそうなので手を打ってほしい」という情報が寄せられます。コミュニティとの相互信頼関係が人権デューデリジェンスの実施には肝となります。

――ラギー教授は最近、英運用会社アラベスク・アセットマネジメントの非常勤取締役に就任しました。なぜ同社に参加したのですか。

ラギー 人権問題はESGの「S(社会)」に当たり、企業の社会的な持続可能性そのものです。投資家の投資判断に人権を組み込むことで、この問題を主流化したいと考えたからです。

 ただ、投資判断に組み込むためのSの測定方法はまだ世の中で確立していません。これまで企業のSや人権の評価は、ESG評価機関によってバラついていました。また、「人権ベンチマーク(CHRB)」という企業の人権の取り組みを評価するプロジェクトも別にありますが、比較的簡単な分析で企業を評価しています。

 アラベスクはAI(人工知能)を用いて高度な分析を行い、ビジネスと人権に関する指導原則に基づいて企業が人権デューデリジェンスや人権を尊重する責任を果たしているかをスコア化する手法を開発中です。投資家が投資判断に組み込めるようにする予定です。測定方法を確立し、人権評価の世界基準を作ることを目指しています。

■ 人権スコア「UNGPスコア」の開発
ラギー教授が非常勤取締役として参加する運用会社アラベスクでは、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)に沿って企業の人権の取り組みを評価する人権スコア(UNGPスコア)を開発し、世界標準化を目指している
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 私が会長を務めるShiftというNGOでは、指導原則に基づく企業の人権の取り組みの報告を評価しています。企業は人権問題の失敗よりも成功を報告書に記載しがちですし、人権方針の責任者が明確でない場合もあります。報告をスコアリングすることで、指導原則に基づく人権配慮とレポーティングが企業の間で進み、投資家にも活用されることを期待しています。

米ハーバード大学教授、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」提唱者 ジョン・ラギー氏(写真:中島正之)