藤田 香

ここ数年急増する包括連携協定や、全国で選定されたSDGs未来都市。地方創生ビジネスを進めるには、企業とは「異質」な存在をつなぐことが有効だ。

 企業が地域と包括連携協定を結ぶ例がここ数年急増している。リコージャパンは2015年を皮切りにこれまでに27件の協定を結んだ。市町村や県が中心だが、他の企業や金融機関、商工会議所、大学の例もある。ヤマト運輸やイオンは既に30件以上の包括連携協定を結んでいる。

 以前から企業が地域と協定を結ぶ例はあった。工場や支社がある地域に貢献することが主な理由だった。地域の一員として愛される企業であろうと努めた。あるいは森づくりや防災関係の支援など、社会貢献の意味合いのある協定も多かった。

 しかし最近急増している協定は、これらとは明らかに質が違うものである。社会貢献ではなく、本気でビジネスを取りにいこうとする姿勢が伝わるような協定だ。

 例えばリコージャパンが協定を結んだ福井県坂井市では、同社はITコンテンツで地域の魅力を発信する事業を受託した。企画から運営まで請け負い、東京駅近くのビルでプロジェクションマッピングを映して情報発信したり、若者の地元見学ツアーを実現したりした。

■ リコージャパンが結んだ地域との包括連携協定
リコージャパンは各地で協定を結ぶ。福井県坂井市では市、福井銀行、福井信用金庫と4者で締結。若者の地元企業見学ツアーなどを手掛けた

締結先の略 自:自治体 金:金融機関 学:大学や学校 企:企業 団:各種団体やNPO
(出所:リコージャパンのデータを基に本誌作成)
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 同社は地域の困り事の解決で新しいビジネスをつくるために、全国400カ所以上の拠点から各地のニーズを吸い上げるための新しい組織まで立ち上げた。2015年に社会イノベーション部、上部組織として社会インフラ事業部を設置した。ある地域でうまくいった事例を共有し、水平展開する機能も持つ。約20人の社会イノベーション部は、人件費も込みで既に黒字化している。そこに同社の本気が読み取れる。

まるで商社か建設会社

 人口減少、高齢化、耕作放棄地の増加など地域には課題が山積している。その課題解決に企業は技術やノウハウを動員し、ソリューションをつくることで新しい市場を掘り起こしたいと考えている。その背景には、既存のビジネスだけではもはやジリ貧だという危機感がある。

 「複写機というモノ売りだけでは、これ以上市場は広がらない。地域の課題を聞くことでビジネス領域が広がる」と、リコージャパン執行役員で社会インフラ事業部長の松坂善明氏は地域の大切さを話す。

 こうした地域課題解決=地方創生ビジネスの隆盛に、さらなる燃料を注いだのが、2015年のSDGs(国連の持続可能な開発計画)の登場だ。日本では地方創生を柱に据えて、国が「SDGs未来都市」を29都市選定した。最近は、全国各地でSDGsに関するワークショップが花盛りだ。商工会議所や中小企業に広がりつつある。ESG投資家の目も企業のSDGsの取り組みに注がれている。

 地域との関係をこれまで通り社会貢献だけで考えていると、時代に置いていかれる。地方創生ビジネスをうまく実践している企業は、社会貢献から頭を切り替え、本気でビジネスを取りにいく。そして自社のネットワークを生かしながら、社内にはない「異質」な存在をつなぐことに成功している。

 包括連携協定は結んでいないが、つなぐことを象徴するのがリコージャパンの神戸市での事例だ。市や神戸常磐大学と協力し、空き店舗を利用した子育て支援施設づくりに取り組んだ。ここでは、施設の保母さんの確保が難しいという問題に直面した。そこで、女性社員が大学と議論を重ね、大学生が子供の面倒をみる代わりに単位を取得する新しい仕組みをつくり開所に至った。リコージャパンは、ICT機材やプロジェクターを納入しただけでなく、施設と大学を深くつなぐ役割を果たした。

 困り事を解決する同社には、駐車場を造ってほしいという“お門違い”な依頼まできている。「まるで商社のようだ」と松坂氏は話す。

 東京・代官山にあるおしゃれなレストラン「スプリングバレーブルワリー東京」。醸造所も併設し、様々な種類のクラフトビールを飲めるこの店は若者や女性にも人気で、2015年のオープンから来店客が100万人を突破した。ここはキリンが仕掛ける地方創生ビジネスの最前線基地だ。なぜならキリンが契約している岩手県遠野市の農家が育てた国産ホップを発信する場所だからだ。