キリンが農業生産法人

 日本メーカーのビールに使われているホップは大半が輸入品。だが、キリンは国産にこだわり、国産ホップの約7割を使用してきた。ところがその生産地が危機に瀕している。人口減少や高齢化でホップ農家が減り、生産量は2005年の500tから2017年には約270tまで落ちた。「国産ホップの使用をやめよう」という意見も出なかったわけではない。

 しかし同社はこの課題を逆手にとり、新しいビジネスをつくるチャンスと捉えた。それはクラフトビールの普及だ。クラフトビールは地域ごとに作り手がいて個性があり、国産ホップの香りや風味を引き出せる。通常のビールに比べ、付加価値を付けやすい。ビール市場全体は縮小傾向にあるが、「地域の文化や作り手の個性を反映するクラフトビールなら物語があり若者にも受け入れられると考えた」と、キリンCSV戦略部の浅井隆平氏は説明する。

 海外ではビール市場の15%をクラフトビールが占める。日本は0.9%にすぎないが、じわりと人気は出ている。2025〜29年には4%まで増えるとキリンは予想する。ここに先手を打つのは、将来のための長期的な成長戦略といえる。

■ キリンは町づくりと新しいビール文化作りに乗り出す
国産ホップを生産する農家が減る中、キリンはクラフトビールの市場を広げ、文化を作り、生産地の活性化を狙う

 キリンは新しい販売先を確保するため、4種類のクラフトビールが出るサーバーの飲食店への設置も始めた。2017年の1000店をスタートに、18年には7000店、2019年は1万3000店に増やす予定だ。

 持続的に原料を調達していくために、ホップの大切な産地である遠野市の将来の発展に向けた町づくり構想にも深く関わっている。

 遠野市や農家、農協、社会起業家「ネクストコモンズラボ」の林篤志代表と共に地域資源を可視化し、遠野の未来の構想をこう描いた。ホップを生産するだけでなく、ビールのおつまみ野菜も生産していること。醸造所のあるパブがあり、ホップやビールのイベントや祭りで賑わっていること。ビールを通した観光があり、遠野物語など民話のふるさとでもある昔からの観光地とも一緒に巡るツアーがあること、などだ。

 構想の実現のため新たな事業にも乗り出した。2018年設立された農業生産法人「BEER EXPERIENCE」にキリンも1億5000万円を出資し、浅井氏を副社長に送り込んだのだ。ホップの生産効率化、おつまみ野菜パドロンの生産、加工品の開発・販売、ビアツーリズムを実施し、2026年に売り上げ2億5000万円を目指す。

 移住者も増えた。ネクストコモンズラボが、地域おこし協力隊として「醸造家を1人、大胆な発想で持続可能な農業をする生産者を1人」募集したところ、80人の応募があった。町の構想に引かれて自力で来た人も含め、ここ2〜3年で新規就農者は12人に上っている。

 キリンはクラフトビール事業を手掛けることでボリュームゾーンのビールのブランドイメージ向上にもつながるとみる。原料から国産にこだわるというブランドイメージに重なるからだ。同社が実施したアンケートでは、クラフトビールを飲む人の半数が、通常のビールでもキリンビールを飲むと答えたという。

 遠野の活動をキリンはCSV(共有価値の創造)やSDGsと結び付けて発信し、ESG投資家にホップの未来と企業の成長を説明している。