廃校でチョコレートを作る訳

 企業と地域の連携ビジネスを仕掛けるのは、何も企業の方からだけではない。地域の方がハブとなって企業を囲い込むこともある。SDGsの登場がそれを後押ししている。国は2018年6月、SDGs達成に向けて優れた取り組みを提案する都市をSDGs未来都市として29都市選び、10都市を「自治体SDGsモデル事業」に選んだ。モデル都市に選ばれた神奈川県はSDGsで頑張っている企業を認定する制度を作り、企業のSDGsイノベーションを後押しし、地域活性化を狙っている。

■ 29のSDGs未来都市と10のモデル事業
出所:内閣府
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 北海道下川町も自らハブとなる。人口3300人、町の9割を森林が占める小さなこの町は、政府の「ジャパンSDGsアワード」第1回内閣総理大臣賞を受賞した。住民や町の職員が議論して、「2030年の町のありたい姿」を作った。それを踏まえて企業との連携も強化している。2019年1月には連携のための窓口「SDGsパートナーシップセンター」を設置した。現在、ベルシステム24ホールディングスとラ・バルカグループ(愛知県豊橋市)、三井不動産、吉本興業とそれぞれ包括連携協定を結んでいる。

 ベルシステム24とラ・バルカとの連携では、下川町の廃校を活用し、障害者を雇用したチョコレート生産の事業に乗り出す。なぜ3者でチョコレート作りなのか。もともとラ・バルカは障害者を雇用して「久遠チョコレート」という人気ブランドを生産している団体だ。今回の連携で北海道に初めて進出する。

 ベルシステム24はコールセンターを運営する企業で、全国に3万人のオペレーターを抱える。協定を結んだのは、人材確保のために会社としてダイバーシティ重視の姿勢を示すためだ。

 「会社のリソースのほとんどは人的資本。障害者雇用にも力を入れ、人的資本で差別化する戦略をとってきた」(景山紳介・執行役員事業戦略部部長)。

 しかし、コールセンター業務だけでは障害者雇用に限界がある上、設置場所も大都市や地方の中堅都市に限られていた。新しい地域や職種に進出すれば、社員の業務の幅を広げ、地方でも障害者やシングルマザーなど多様な人材を雇用できる。それが企業のブランド価値を高め、最も重要な人材確保や新規採用につながると考えた。

 下川町にとっては新たな産業を創出できる。下川町がインフラを整備し、ラ・バルカがチョコレート生産技術を提供し、ベルシステム24が人材を雇用する。自社でできないことを補完することで事業化が見えた。今後は下川産の原料の使用も期待する。「下川町のフルーツトマトや小麦粉、ブルーベリーなどの農産物を活用した久遠のオリジナル商品もできれば」と、SDGs戦略推進室室長の蓑島豪氏は将来を見据える

 一方、三井不動産は下川町とのパートナーシップで森林の施業を行う。同社は北海道の31市町村に合計5000haの森林を所有し、うち12haが下川町にある。いずれも50年生で伐期を迎えているが、点在した森を施業するにはコストがかかる。そこで北海道にある三井不動産の森林資源を一括して下川町に施業・加工してもらい、三井不動産や三井ホームで活用する仕組みがつくれないか模索している。林業の新しいモデルを町と話し合っている。

■ 下川町と企業のパートナーシップ
SDGs未来都市に選ばれた北海道下川町は、複数の企業とそれぞれ協定を締結している。課題と強みを補完し、互いのブランド価値を高める
(写真(吉本興業):尾関裕士)
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 SDGs未来都市の取り組みは始まったばかりで成果が出るのは先になるが、これまでになかった連携の形を示している。

「日経ESG」(2019年3月号)では、SDGsで地方創生に取り組む企業事例などさらに詳しく紹介しています。