聞き手/馬場 未希

金融市場に対する気候変動の影響を抑えるため企業や業界に変革を迫る。石炭関連企業には株式売却より対話で、行動を求めるべきだという。

――アビバ・インベスターズは投資や資産運用において、「気候変動」をどのように考慮していますか。

スティーブ・ウェイグッド
英アビバ・インベスターズ 最高責任投資責任者
英アビバ・インベスターズで資産総額350億ポンドのすべての資産クラスと地域でESG投資を担うグローバル責任投資チームを率いる。欧州委員会の持続可能な投資に関わるハイレベル専門家グループ(HLEG)と気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のメンバー、国際統合報告評議会(IIRC)のアンバサダーも務める

スティーブ・ウェイグッド 氏(以下、敬称略) 保険会社であるアビバはアセットオーナー(資産保有者)として、ファンドマネジャーの役割を担うアビバ・インベスターズに保有資産の運用を託しています。そして、我々アビバ・インベスターズは、気候変動に関する投資戦略を世に打ち出した金融機関としてフロンティアの1社と自負しています。

 パリ協定が策定される前の2015年7月、低炭素社会の構築に貢献するインフラ投資に毎年5億ポンド(約750億円)を投じることを決めました。太陽光発電事業や風力発電事業、廃棄物発電事業、低炭素エネルギー開発などへの直接投資、株式や債券への投資も進めています。

 また当社は2015年、英誌「エコノミスト」の調査部門(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)に気候変動に関する財務リスクの調査を依頼しました。その調査報告「THE COST OF INACTION(行動しないコスト)」には、今世紀に気温が6℃上昇すると、深刻な環境変化による物理的な損害と訴訟費用などにより金融市場において実に43兆ドル(4400兆円、現在価値に割り引いた額)の価値が吹き飛ぶとの示唆が記載されました。

■ 気温が6℃上昇すると金融市場の3割の価値を失うと予測
英エコノミスト誌の調査部門(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)がアビバから受託した気候リスクが金融市場に及ぼす影響をまとめた報告書「The cost of inaction」
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 そのため、投資先となる企業が気候変動という課題を考慮し、リスクに対処して抑えるための適切な仕組みを社内に置いているかどうか、我々のような機関投資家が把握することは極めて重要と捉えています。

――アビバとアビバ・インベスターズは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同しています。ウェイグッドさん自身は、TCFDのメンバーですね。

ウェイグッド そうです。TCFDが2017年6月に発表した「提言」の作成にも携わりました。

 我が社が株式や債券に投資する際には、企業の気候変動戦略に関する情報開示に着目しています。企業による気候情報の開示では、次の3つの主要な気候リスクの影響を投資家が評価できると望ましいと考えます。

 1つ目は極端な異常気象が資産に及ぼす「物理的リスク」。2つ目は低炭素経済への移行に伴う「移行リスク」。世界で「炭素収支(カーボンバジェット)」が考慮されることで、化石資源の大部分が、価値が毀損するか使用不能になるでしょう。

 そして3つ目が「訴訟リスク」です。化石資源採掘企業と温室効果ガスの大量排出企業は補償請求による潜在的なリスクを抱えています。

■ 年次報告書ではTCFD開示に2ページを割いた
出所:アビバ「年次報告書(Annual report and accounts)2017
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――気候変動に関わるエンゲージメント(対話)の事例を教えてください。

ウェイグッド 投資先企業との気候変動に関するエンゲージメントをグローバルに進めています。例えば機関投資家として初めて、ポーランドに訪問して気候変動に関するエンゲージメントを実施しました。同国の株主やグローバルの投資家と協力してポーランド最大の公益事業会社(欧州の最大の排出企業の1つ)に、CO2排出量の開示と気候変動への対応を、より透明性をもって進めるように求めました。その企業は我々のアプローチが建設的だと判断し、最高財務責任者(CFO)や取締役会が問題に取り組むと約束しました。

 それで終わりではありません。ポーランドでは、国の戦略が企業の将来を左右するため、我々はポーランド政府とも気候変動戦略の詳細に関わるエンゲージメントを実施しています。ポーランドは2018年12月に開催する気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が開催される議長国でもあります。

 他にもこれまでに、大規模に温室効果ガスを排出する企業5社と、パリ協定に合致する温室効果ガス削減目標の策定に合意しました。

 例えばタイの発電会社グロウ・エネルギーと、イタリア電力大手のエネルは今後、石炭火力発電所を新設しないことを決めました。また、販売電力量に占める火力発電の割合を3割以下にする目標を設定した電力会社もあります。