聞き手/田中 太郎

ESG投資は資本市場にどのような影響を及ぼし、今後はどうなっていくのか。世界のマネーの動向に詳しい日興アセットマネジメントの柴田社長に聞く。

――ここ数年の世界の投資の動きに特徴はありますか。

柴田 拓美(しばた・たくみ)
日興アセットマネジメント 代表取締役社長 兼 CEO
1953年神奈川県生まれ。76年慶應義塾大学卒業、野村證券入社。副社長時代に米リーマン・ブラザーズのアジア・欧州部門の買収を主導した。2013年7月に日興アセットマネジメント会長に就任。14年1月から現職(写真:鈴木 愛子)

柴田 拓美 氏(以下、敬称略) 米国の大手年金基金はESGへの対応を完了したはずですが、地球の温暖化は進んでいるわけです。その焦燥感は共有されていますので、E、つまり環境の分野では今後進化が期待されます。まず環境技術関連のベンチャー投資が盛んになり、環境技術に強い大企業への投資が続きます。

 S、つまり社会の分野では、雇用の在り方が大きな要素ですが、これは米国年金投資家の運用に大きな声を持つ労働組合の重大関心事項です。雇用には人材確保という面があります。

 G、つまりガバナンスは経営者を監督する仕組みですが、継続的な改善努力が行われてきて今日に至っています。

 従って、ESGが今すぐ大きなお金の流れをつくるかというと、そのようなことはありません。金額的には収まるところに収まっていますが、質的な進化が続きます。

 今後、期待される動きとしては、特にEの分野で新しいテクノロジーと社会システムが確立してくると、新しい投資機会が生まれてくるのではないでしょうか。

 例えば、地球温暖化対策が強化され、第1段階ではCO2排出削減、第2段階でCO2排出をゼロにするカーボン・ニュートラル、第3段階では空気中のCO2を固定化するカーボン・リムーバルへの移行が予想されます。かなりの技術は実証研究段階ですが、実現すれば面白くなるのではないでしょうか。そういった新技術がもたらす投資機会に我々も注目しています。

投資プロセスの不可分な部品

――規制強化が予想される環境分野に注目ですか。

柴田 将来を予測することにESG投資の競争の中心が移ってくると思います。投資の基本は、明日何が起きるのかを予想して今日の投資に結び付けることです。環境分野で規制が変わるとすれば、新しい規制の下で利益の出る会社はどこかを探すわけです。

――将来を見ているから、ESGを重視するわけですね。

柴田 もちろんESGだけが投資要素というわけではありません。投資のプロセスの中でいろいろな要素を評価します。ESGは大きな要素の一つであり、投資のプロセスの不可分な部品です。近視眼的にESGを見ただけでは投資はできないという考え方です。

――ESGを投資のプロセスに組み込むインテグレーションですね。

柴田 当社は、CSV(共有価値の創造)の観点から、社内のアナリストがESG、市場競争力や財務を包括的に評価する独自のスコアリングを実施しています。2013年8月から5年以上にわたって国内500社とコンタクトをして得た独自のデータベースを基に、投資に活用しています。現在も、評価対象企業を拡大中です。

――社内で評価を行っているのですね。成果は表れていますか。

柴田 スコアリングの結果、特にSの中でも雇用に着目すると良い投資成果となる確率が高まることが分かりました。今後、雇用を増やすという意思決定をしている会社は伸びる蓋然性が高いわけです。

 単にスコアに基づいて平板にウエーティングするのではなく、「こういうもののウエートを増やすとパフォーマンスが良くなる」というような分析と発見が鍵です。

――ESG投資には、投資家が中長期的にリスクをヘッジするという要素が大きいのでしょうか。

柴田 ESG投資にはいろいろなスタイルがあります。例えば、評価会社が作るリストの中でESGの評価の良い会社だけに投資する、あるいは逆に悪い会社には投資をしないという方法があります。

――ポジティブ・リストとネガティブ・リストですね。

柴田 ネガティブ・リストは、リスクの回避に使えます。保険です。分かりやすいけれど、少し古くなって手垢がついている手法です。今のESGの議論はもっと複雑になっています。

 年金投資家の間では、ESGへの取り組みは当然として、低成長・低金利への取り組みが大きな課題となっています。ですからプライベート・デット(*)やプライベート・エクイティ(PE)へ向かう資金移動が目立っています。流動性を犠牲にしてでも利回りやリターンを追求するわけです。もちろんこの分野でもESGは大切です。ESGは新たな潮流というよりは、空気のようなものでしょうか。

――低成長・低金利がESG投資拡大の背景ですか。

柴田 それは違います。地球温暖化が原因なのか、嵐が激しくなり、砂漠が拡大し、山火事も増えています。2017年にアジア開発銀行が発表したリポートでは、アジア太平洋地域の気温がこのままだと2100年には産業革命から6℃上がり、海面上昇や砂漠化などによって人口の大移動が起こると予測しています。世の中がESGに興味がないわけはありません。

 「とにかく短期的リターンさえ上がればいい」という投資が認められなくなってきているということだと思います。

*:プライベート・デット
格付けがない企業などに対し投資家から集めた資金を融資するファンドや金融機関