「信任」が販売に直結する

――財務諸表に表れにくいブランドや知的財産などの無形資産の重要性が高まっていることが、ESG投資が拡大する要因だともいわれています。

柴田 無形資産の評価にはいろいろありますが、将来稼ぐ力の現在価値と固定資産との差が無形資産です。例えばブランド力、社会からの信任、販売力、今後期待できる生産性の向上なども入ります。

 最近、欧米の会社ではCEO(最高経営責任者)がESGに対するコミットを自らの言葉で発信するケースが増えています。これが売り上げに直結するからです。

 背景としてミレニアル世代の人たちの購買行動があります。つまり会社が表象するバリュー・価値観が購買動機の大きな要素になっています。同じ値段ならば自分が共感できる会社の商品に“一票”を入れる。逆に、会社としての信任がなくなると存立を許されない世の中になっていきます。

 生産性に関しては、日本の会社は労働生産性が低くて海外、特に米国の会社は高いと言う人がいます。数字を見れば確かにその通りですが、生産性に影響する最も大きな要素は、販売価格かもしれません。労働者は一生懸命に仕事しているけれど、その会社の戦略が悪かったり、販売体制が弱かったり、独自の商品を作る力が弱ければ労働生産性は低くなります。

 基本的に労働現場の生産性を向上しなければならないけれども、利の薄いものをいくら作っても生産性は上がりません。労働生産性の議論を現場の努力だけに矮小化するとおかしいことになります。

――市場競争力と労働生産性を分けて考えられない。

柴田 やはり良い商品を作って売れている会社は勢いもあるし、従業員も生き生きとしているし、成長もします。将来性のない分野に労働者や生産設備を張り付けていては、現場は疲弊します。

企業は投資家を選べ

――企業経営者は投資家から、一方でESGをしっかりやれと言われ、また一方で早く儲けを出せと言われ、非常に悩ましいという声も聞きます。

柴田 正しい悩みです。IR(投資家向け広報)の対象を誰に絞るかを企業経営者は決めるべきです。経営者は、その企業の戦略に合った投資家に株式を持ってほしいはずです。そうではない人が株式を持つと必ず矛盾が起きます。

 例えば、その企業の戦略が安定成長の局面でキャッシュフローを極大化して次の成長に備える経営をするならば、(利益に対して株価が割安な企業に投資する)バリュー型の投資家がフィットします。企業の成長性に期待するグロース型の投資家とは当然、意見は合いません。

 そうした投資家に加えて、いわゆる「アクティビスト」といわれる投資家がいます。中期成長戦略を提案する人もいますが、「すぐに市場から株式を買い取ってほしい」とか、「すぐに大幅な配当をしてほしい」などと言う人もいます。

 投資家によって目線が違うので、経営者の哲学と合う投資家とコミュニケーションを増やすことがIRの基本です。

――まず自分を見つめることですか。

柴田 企業経営者が何をしたいかを明確にしなければ、IRをしても混乱するだけです。投資目的などの異なる何種類もの投資家を同時に満足させることは難しいのです。

ESGを先読み、重点投資

――日興アセットマネジメントでは、企業とのエンゲージメント(対話)に力を入れています。

柴田 当社は今、約2100社とのエンゲージメントを行っている、恐らく日本では類例のない投資家です。1対1のエンゲージメントを1社当たり年間4回実施することを目指しており、2017年度は合計3758回実施しました。

 エンゲージメントは、インデックスに基づいて機械的に銘柄を選ぶパッシブ投資には有効です。個別に銘柄を選ぶアクティブ投資には有効ではないかもしれません。

 というのも、アクティブ投資家は良くないと思った会社の株式は売ればよいからです。ところが、パッシブ投資家はインデックスに入っている株式を持たなければなりません。エンゲージメントで投資先の企業価値を高める努力の受益者は、パッシブ投資家です。

 我々がエンゲージメントに力を入れるのは、アクティブ投資を行うだけでなく、ETF(上場投資信託)をはじめとするパッシブ投資のファンドを運用しているからです。エンゲージメントが当社の利益に直接結び付くわけではありませんが、投資家の利益になることをやろうという姿勢です。

――投資家にとってESG投資は儲かるのでしょうか。

柴田 ESG推進とリターンの両立は難しいですが、ESGの要素をフォワードルッキング(先読み的)に捉え、重点を絞って投資すると良い結果が出る。それが当社のCSVスコアリングの考え方です。

日興アセットマネジメント 代表取締役社長 兼 CEO 柴田 拓美氏(写真:鈴木 愛子)

本記事は、「日経ESG」2月号より転載。肩書は取材当時のものです。