馬場 未希

世界の企業が、気候リスク経営を求めるTCFDへの対応に着手し始めた。企業の思惑と投資家の期待に、ギャップも見え始めた。

 トヨタ自動車、日立製作所、キリンホールディングスなど気候変動対策の先進企業が、TCFDに基づく情報開示に相次いで着手し始めた。

 トヨタは2018年9月、「気候変動に関するシナリオ分析」を掲載した環境報告書を発行した。2030年に実現を目指す電動車比率の目標が、「2℃目標」や「2℃未満」の達成に十分に貢献すると示した。国際エネルギー機関(IEA)の2つのシナリオを用いて分析したという。

 ただそこには、電動車比率目標の内数であるZEV(走行時のCO2排出ゼロの車)比率の目標が、2℃未満を目指すには十分でないとの分析も記した。同時に、電動車に欠かせない要素技術を培い量産基盤を確立しており、それはZEVにも活用できること、需要の変化に応じて柔軟かつ戦略的にラインアップを変更できることを説明。世界で脱炭素社会への「移行」が強まろうと無策ではなく、打って立つ備えがあると示した。

 また、日立製作所はCDPによる2018年の質問に、気候変動に関わる多様な「リスク」にさらされると同時に、ビジネスの「機会」を獲得する可能性を説明している。鉄道から電力・エネルギー、産業機械、家電製品まで広範に事業を展開し、世界に拠点を置くためだ。IEAと気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオを使って、社会の将来像を描いた。

日立製作所の英国都市間高速鉄道計画向け車両
(写真提供:日立製作所)

 日立の場合、例えば気候変動の激化で、洪水被害が起こりやすい東南アジアの拠点が災害に見舞われ、事業に影響が及ぶ「物理的リスク」を抱える。一方、同社のIT(情報技術)を生かした防災ソリューションシステムを販売するなど、気象災害対策ビジネスの機会になり得る。

 キリンホールディングスが2018年6月に発行したグループの環境報告書は、食品や飲料業界を震撼させた。試行と断りながら4つの気温上昇シナリオと3つの社会経済シナリオを組み合わせ、主要な原料である農産物に及ぶ影響を示したからだ。

 温暖化対策や情報開示には腰の重かったはずの業界も、動きが違う。例えば鉄鋼業界だ。2018年11月、日本鉄鋼連盟は2100年に世界の製鉄業からのCO2排出をゼロにする技術開発シナリオを示した。これはいずれ、国内製鉄会社による長期的な気候シナリオ分析や戦略の土台になる。

 石炭火力発電所を抱える大手電力会社の担当者も、「エネルギー業界でトップの開示を目指す」と意気込む。

強大な投資家らが要請

 いずれも「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が2017年に発行した「提言(Recommendations)」に基づき情報開示に着手したケースだ。2018年は世界の企業が提言に対応し始めた。内容が企業の価値や強みを投資家に示すものだけに、なかには開示で他に差を付けようとの競争も起きている。