「将来予測」の開示に課題

――TCFD提言に基づく新しい質問にはどのようなものがありましたか。

シンプソン 例えば、自社の財務や戦略に影響を与える可能性のある気候変動のリスクや機会を特定し、その上で財務計画や、将来の財務予測にどのような影響を与えるかを尋ねる質問がありました。これは企業には目新しいだけでなくチャレンジングな質問だったでしょう。

 とはいえ、我々は全く新しい作業を求めているわけではありません。これまでも、企業に対して気候変動対策の進展によって生じ得るリスクや機会を尋ねていたため、企業の側でも対応や理解が進んでいます。ただ、気候変動に関わる情報と業績予測を結び付ける作業に初めて取り組んだ企業が多かったようです。

 今回、印象的だったのは多くの企業が財務計画のために「社内炭素価格」、特に「シャドープライス」を参照していることです。シャドープライスは、温室効果ガスの排出に課金される炭素価格が導入されたと仮定し、将来の財務や事業にどのような影響が及ぶかを予測する手法で世界1400社以上が採用しています。

 業界によって想定しているシャドープライスの価格は様々です。それでも、これを手掛かりに、政府が厳しい温暖化対策を導入したり、経済が低炭素型に大胆に変化したりした場合に、企業経営に及びそうな「移行リスク」を把握しようとしているようです。

 繰り返しですが企業は、将来の予測を示すことには慎重ですね。気候変動のリスクと財務の予測を示すことに抵抗感を感じるようです。次回以降は取り組みを期待しています。

TCFD開示は企業のノルマに

――シナリオ分析に基づく将来予測の開示が課題ですね。これは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や、国際エネルギー機関(IEA)などが示す将来予測に基づきリスクや機会を分析し、経営や事業への影響を検討することですが、簡単な作業ではありません。

シンプソン 世界の大手企業がシナリオ分析に着手し始めたところで、だいたい大手企業200社がシナリオ分析に着手しているようです。充実したシナリオ分析を実践している企業も増えています。ただ、開示に至った企業は少ないですね。

 例を挙げると三菱商事や、米エネルギー大手のエクソンモービル、スイス資源大手のグレンコアなどが実践しています。2〜3年後には、排出量の多い企業を中心に、シナリオ分析はノルマとなるでしょう。

 そして今回、IPCCやIEAなどによる長期の気候シナリオに基づくシナリオ分析を事業戦略に活用しているかを尋ねました。多くの企業が活用し始めたと答えています。

 気候変動対策と、事業の目標や戦略との結び付けに大変多くの企業が積極的に取り組んでいることが分かりました。特に目標設定、温室効果ガス排出量の削減、科学的知見に基づく長期目標(SBT、企業版2℃目標)、なかでも今世紀末の気温上昇を1.5℃に近づけることを考慮に入れた分析、再生可能エネルギー、省エネの進展など、重要な動きが見られます。

 さらに経営の上層部の賞与を、気候変動対策の進展と結び付ける企業が現れています。

 対応が進んでいるのは欧州、米国、カナダ、日本です。ブラジルや南アフリカでもレベルの高まりが見られます。中国、インドは、ESG情報の開示について低いレベルにとどまっていましたが、ESG情報開示への理解と受け入れが急速に進み、他の国に追い付きそうです。

 特に中国政府は、企業に対するESG情報開示の義務付けを検討しており、2020年までの導入を目指しています。今後、さらに開示が加速するでしょう。