聞き手/藤田 香

WBCSDは地球課題を解決する企業プラットフォームを作り、解決策を提案してきた。SDGs、TCFD、自然資本、情報開示の未来についてCEOが見解を示した。

――WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は世界の200社以上のCEO(最高経営責任者)が主導するビジネス組織です。いま重視しているサステナビリティのテーマを教えてください。

ピーター・バッカー
持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD) プレジデント&CEO
オランダに本拠を置くエクスプレスやロジスティックの企業TNT NVのCEOを務めた後、2012年1月にWBCSDに参加。2009 年にクリントン・グローバル・シティズン賞、2010年にロベコSAMのサステナビリティ・リーダーシップ賞を受賞。国連世界食糧計画(WFP)の飢餓撲滅大使、国際統合報告評議会(IIRC)副議長の他、「ビジネスと持続可能な開発コミッション(BSDC)」のコミッショナーなども務める(写真:山口大志)

ピーター・バッカー 氏(以下、敬称略) 特に重要と考えているテーマは気候変動と不平等の改善です。世界では7億人が極度の貧困状態にあり、2000万人が奴隷労働、1億5000万人が児童労働を強いられています。個社では取り組みにくいグローバルな課題に対して共通のプラットフォームを作り、ソリューションを策定するのがWBCSDの活動の特徴です。日本企業も20社が参加し、トヨタ自動車と富士通はグローバルな理事会メンバーにもなっています。日本経済団体連合会(経団連)もWBCSDを支援しています。

――人権・労働はSDGs(持続可能な開発目標)でも重要なテーマですね。WBCSDは企業がSDGsに取り組む際のツール「SDG Compass」を、国連グローバル・コンパクトやGRIと共に策定しました。SDGsに取り組む際、企業が気を付けるべきことは何ですか。

バッカー 企業が避けるべきなのは、1、2個の目標に注力することです。企業は往々にして「SDGsのX番に取り組んでいる」という発表をしますが、SDGsがどのような経済システムの変革を求めているかを見るべきで、もっと包括的に取り組む必要があります。

食品や建設のSBTを設定

――変革をどのように起こせるか、悩んでいる企業は多いです。どんな手順で取り組めばよいですか。

バッカー 2つの方法があります。1つ目はSDG Compassを活用する方法。自社が影響を及ぼすSDGsの目標をマッピングし、行動計画を作り、運用に落とし込むこと。2つ目はより多くの日本企業が着手しやすい方法ですが、WBCSDが作った経済システムの変革プログラムを参考にしたり、参加したりすることです。「気候とエネルギー」「サーキュラーエコノミー」「食料・土地・水」「都市とモビリティ」「人々」「価値の再定義」の6つの経済システムにおける変革を提唱しています。

■ WBCSDによる6つの経済システムの変革とソリューション
*はスコープ
(出所:WBCSDの資料)
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 どの分野に着手するかは業界で変わります。例えば自動車業界なら都市とモビリティ、石油・ガス業界なら気候とエネルギー、食品業界なら食料・土地・水でしょう。我々はそれぞれで変革のプログラムを提案してソリューションを示し、技術やノウハウを提供できる企業に参加してもらう形を取っています。

 変革の進捗を測るために科学的根拠に基づいたターゲットも定めています。例えば「モビリティの変革」の場合、モビリティをテーマごとに細分化します。「自動車の電動化」というテーマでは、燃焼機関から電池への動力源の変化、自動運転、シェアリングなどにさらに細分化し、それぞれで科学的な根拠や時代の流れを考慮して、具体的なソリューションを列挙します。ソリューションがプールされた“バケツ”を示し、技術やノウハウを提供できる企業に参加してもらい、実装していきます。

――変革の未来像を描き、企業を募るのですね。一方、個社で新しいビジネスモデルを実現できる企業もあります。

バッカー 我々は大きな将来像を描くこと、「ビジョン2050」を示すことが役割の1つです。一方、1社だけでも新製品開発やイノベーションにより新しいビジネスモデルの開発は可能です。ただ、十分なスケールアップができません。本当の変革には社会の意識を変える必要があります。政策立案者の協力や新しい法律や規制も必要になります。協業する企業によるプラットフォームでの連携プレーが重要で、その役割を担えるのがWBCSDだと考えています。

――気候変動のSBTは有名ですが、他の分野で科学的根拠に基づいたターゲットはどのようなものがありますか。

バッカー 2019年1月に「食料と土地利用」に関するターゲットを発表しました。「持続可能な都市」の建物のターゲットも予定しています。

 食料と土地利用のターゲットは、ノルウェーの団体「イートランセット」が作りました。食品製造において、1haの耕地で作物を栽培するのに利用する水や肥料の量などの環境に関する複数のターゲットを定めました。植物由来たんぱく質の含有量や糖の摂取量など、健康・食生活に関するターゲットも定めました。

 将来的には食品分野のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のような世界の科学者が参加する組織を作ることが目標です。WBCSDはイートランセットのデータを基に、肥料や糖の摂取量削減などのソリューションを提供できたらと考えています。SDGsの目標3(健康)に結び付けたいです。