国連総会で2つの提案

――2019年9月の国連総会では、首脳級の「気候サミット」と「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」が開催されます。その場でWBCSDは何か発表しますか。

バッカー 2つの活動を予定していします。1つ目は自然資源を活用した気候ソリューション。森林や牧草地、湿地帯などの自然に温室効果ガスを吸収してもらう活動です。利用されていない荒地に植林したり牧草地や湿地帯に転換したりすることで世界の温室効果ガス排出量の37%を吸収できるので、その面積を拡大する活動です。

 自然を活用した気候ソリューションの技術や、政治家との対話、新しい資金メカニズムを提案する場にしたいです。植林や湿地帯創出に要する資金をエネルギー関連企業が払ってCO2を相殺する新しい資金メカニズムを検討しています。

 2つ目は、高温加熱が必要な産業における温室効果ガス削減の提案です。鉄鋼やセメント、ガラス製造、化学薬品などの産業に対して、高温加熱の際に化石燃料による燃焼ではなく電気で加熱し、バイオマス燃料や水力発電などの代替エネルギーに切り替える提案をします。

――WBCSDが中心となって立ち上げた自然資本連合(NCC)は「自然資本プロトコル」を発表し、企業が自然資本に及ぼす影響や依存度を測って開示することを後押ししています。企業の非財務情報開示はどのような方向に進むでしょうか。

バッカー 企業は気候変動や水資源などの環境や社会的側面のリスクを評価することが求められるようになりました。リスク測定には「自然資本プロトコル」と「社会資本プロトコル」を活用することが重要です。理想的な統合報告書はまだ少ないですが、「環境・社会面の影響を考慮し、このような財務的判断を下した」というストーリー展開になるべきです。

 開示の将来を考えると、多くの企業が採用しやすい枠組みは米サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の枠組みだと考えています。インパクトの重要性を基にセクター別に定量化まで落とし込んでいるので、企業は実装しやすいでしょう。

――気候変動では気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提唱する枠組みに従った開示が始まっています。

バッカー WBCSDはTCFDに沿って開示する人のためのフォーラムも作っています。TCFDはビジネスモデルを想定したシナリオ分析や、戦略的な判断の記述を求めています。重要なのはESGのデータではなく、企業が気候変動に対してどんな姿勢で立ち向かい、ガバナンス体制を敷き、企業戦略を仕立てるかです。

 どの開示の枠組みが一般的になるかは分かりませんが、やはりSASBが使われるのでないかと考えています。ただ、SASBの枠組みでガバナンスや戦略をどう開示していくのかは、各社で考えないといけません。

 一方、GRIや米財務会計基準審議会(FASB)、国際統合報告評議会(IIRC)など複数の枠組みの足並みをそろえる話し合いも始まっています。決着まで数年かかりますが、まずは企業としてリードしたいなら、TCFDとSASBの枠組みに沿った開示を導入するのが賢明です。WBCSDを介して企業同士が連携し、「こういう開示の標準化が良い」とデファクトスタンダードを示すのもよいでしょう。

持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD) プレジデント&CEO ピーター・バッカー 氏(写真:山口大志)