相馬 隆宏
海洋汚染の原因となっているプラスチックごみ対策が加速している。世界の企業が、使い捨てをしない「ごみゼロ」の経営にかじを切り始めた。
2019年1月、政財界のリーダーが集まる世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」で画期的なビジネスが発表された。シャンプーや洗剤、化粧品、清涼飲料、アイスクリームといった日用品や食品を、容器を「使い捨てない」で販売するというものだ。5月からまずニューヨークとパリで展開する。30社を超えるメーカーの約300品目がウェブサイトで買えるようになる。

(写真:テラサイクルジャパン)
現代版の「牛乳配達」
例えば、シャンプーを購入した顧客が商品を使い切り、再び注文すると、新しい商品を届けてくれると同時に空になった容器を回収してくれる。回収した容器は洗浄し、メーカーの工場で再び中身を詰めて出荷する。容器は何度も繰り返し使うのでごみが出ない。顧客は空の容器を捨てる手間が減る。
このビジネスを展開するのは、「Loop(ループ)」と呼ぶイニシアチブ。参加企業には、廃棄物問題に取り組む米テラサイクルの他、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やスイスのネスレ、米ペプシコ、英蘭ユニリーバ、米モンデリーズ・インターナショナルなど、世界の名だたる日用品や食品メーカーが名を連ねる。
テラサイクルジャパンアジア太平洋統括責任者のエリック・カワバタ氏は、「昔の牛乳配達のようなビジネスモデル」と言う。以前から容器をリユースする販売モデルを検討していた企業はあったが、輸送コストなどが壁となり、1社だけでは実現しにくかった。世界経済フォーラムは、持続可能な消費モデルとしてループのビジネスを支援していく。
大手グローバル企業が大同団結し、古くて新しいリユースモデルに乗り出すのは他でもない。プラスチックごみ問題を解決するためだ。プラスチックごみによる海洋汚染が、重大な社会課題として世界で関心が高まっており、国や企業の動きが急激に加速している。
2018年6月の主要7カ国・地域(G7)首脳会議では「海洋プラスチック憲章」が採択され、2030年までにプラスチック包装の55%以上をリユース・リサイクルし、2040年までにすべてのプラスチックを有効利用する数値目標が盛り込まれた。
同じ頃、米マクドナルドと米スターバックスがプラスチック製ストローの廃止を打ち出し、その後も“脱プラ”ドミノが止まらない。2019年4月には、コンビニエンスストア国内最大手のセブン-イレブンが、自然界で分解する生分解性プラスチック製ストローを導入すると発表した。
プラスチックごみ問題に対する関心は、2019年、ますます大きくなる。
3月にケニアのナイロビで開かれた第4回国連環境総会(UNEA4)では、プラスチックごみ問題に関する2つの決議が採択された。このうち1つは、日本がノルウェーとスリランカと共同で提案したものだ。海洋汚染対策として、国際的な取り組みの進捗をレビューすることやどんな対策が効果的かを分析することを盛り込んでいる。
UNEAは、国連環境計画(UNEP)の最高意思決定機関で2年に1回開催している。ここで採択された閣僚宣言や決議は国際条約の策定にも大きく影響する。過去には、「水銀に関する水俣条約」や「生物多様性条約」の策定につながっており、プラスチックごみ問題が国や企業に与える影響がさらに拡大する可能性がある。
既に、プラスチックに対する規制は世界で広がっている。ターゲットは、レジ袋や容器包装など、使い終わるとすぐ捨てられる「シングルユース(使い捨て)」プラスチックである。例えば、EU(欧州連合)は、食器やストロー、綿棒の芯などの使い捨てプラスチック製品を2021年から禁止する。
日本ではまだ規制は導入されていないが、環境省が2019年3月に、使い捨てプラスチックの削減目標などを盛り込んだ「プラスチック資源循環戦略(案)」を取りまとめた。
「2030年までに容器包装など使い捨てのプラスチックを25%削減する」「2035年までに使用済みプラスチックを熱回収を含めて100%有効利用する」「2030年までにバイオマスプラスチックを約200万t導入する」──という意欲的な数値目標に加え、レジ袋の有料化義務化などを明記している。
内閣府や環境省、外務省、経済産業省といった関係府省は、現在、海洋汚染などプラスチックごみ問題の解決に向けた具体的な対策を検討中だ。国のアクションプランとして取りまとめ、2019年6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、プラスチック資源循環戦略と共に報告する予定である。