石炭撤退で新素材に投資

――リチウムは蓄電池に使われます。

ニヴェン 再生可能エネルギーや電気自動車への普及拡大で大きな役割を担うでしょう。我々はセルビアでリチウム開発の調査を展開しています。現在は開発の可能性と市場を調査している段階で、今後、投資の是非を判断します。投資判断では、低炭素社会への貢献も考慮します。

――低炭素社会の実現に貢献するビジネスチャンスになりますね。リオ・ティントは2019年、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく報告書を発表しました。TCFD提言は気候変動が関わるリスクや機会の評価などを企業に求めています。

 この報告書の発行に至った背景を教えてください。ESG投資家はリオ・ティントの気候変動に対する事業戦略に関心があるのではないですか。

ニヴェン 投資家に限らず環境NGOなど様々なステークホルダーが以前から、我々が手掛ける事業の持続可能性に関心を寄せていました。しかしこの1年ほど、特に投資家からの気候リスクに関する問い合わせが急増しています。

 ただ、我々がTCFD提言に基づいて情報を開示したのは投資家などの要請が増えたことだけが理由ではありません。企業にとって気候変動への対処は、次の世代に持続可能な社会を引き渡すための最も重要な取り組みの1つで、また同時に事業を展開するうえでの基本的な行動です。

 開示では、投資家などのステークホルダーに対し、事業の透明性を高め、我が社の気候リスクを明らかにし、新素材など新たな投資方針や、気候変動に対する戦略を共有したいと考えました。

――報告書では気候リスクと機会を踏まえた経営戦略として「鍵となる4つの方法(4 key ways)」を示しています。

2019年2月に発行した報告書「Our approach to climate change 2018」(上)でTCFD提言に基づく気候リスク・機会やシナリオ分析、戦略などを開示した
(出所:リオ・ティント)

ニヴェン 社内の戦略チームとエコノミストチームが協力して気候変動に関する4つの戦略をまとめました。

 1つ目は、将来の市場動向を予測・検討したうえで、低炭素社会への移行のため人類にとって必要不可欠な、金属や鉱物などの資源を供給することが我々の役割ということです。

――事業の中核で低炭素社会の実現に貢献するのですね。リチウムの他にどのような資源に注力しますか。

ニヴェン 我々は低炭素経済への移行を支える事業を展開するうえで、3つの事業環境の変化に注目しています。1つ目はリサイクル可能なサーキュラー・エコノミー(循環型経済)への移行が世界で始まっているということ。循環型経済を実現するための鉱業会社の役割を追求します。

 2つ目に、今後輸送や産業プロセスで電化が進むとみられます。また3つ目に、世界で化石燃料からの脱却とエネルギー効率の高い技術への転換が進むでしょう。これら3つの実現に必要な材料を提供することが将来、非常に重要になります。

 例えば銅はその1つです。電導性が高く世界で電力インフラに活用され、環境配慮型のスマートエネルギーの実現に貢献します。鉄などに比べて軽量なため電気自動車など輸送分野でも一層活用されるでしょう。

 もう1つの例はアルミです。軽く丈夫で加工しやすく、リサイクルしやすい低炭素社会に貢献する重要な素材です。米アップルの製品、例えばスマートフォンのiPhoneにもアルミが使われます。アップルは製品の素材や部品のリサイクルを進める方針を明示しています。リオ・ティントは高品質のアルミを、優れたエネルギー効率で精錬する技術を備えており、リサイクルにも貢献できます。

 他に鉄鉱石やコバルトなどといった、低炭素経済への移行に不可欠な資源事業を通じて低炭素社会推進を支える考えです。

――4 key waysの2つ目に事業ライフサイクルで排出する温室効果ガス(カーボンフットプリント)の削減を掲げています。

ニヴェン 鉱業は事業においてエネルギー消費を要するプロセスが多いのが実情です。我が社はすべての事業においてエネルギー効率の向上に取り組んでいます。そのため事業ごとにエネルギー使用量を把握しています。社内のエネルギー管理チームと共に、事業ポートフォリオごと、そして資産ごとのエネルギー使用実態を確認し、エネルギー利用のどのくらいの割合を再生可能エネルギーに転換できるかや、その実現可能性、採用可能な技術の評価や導入について検討しています。

――事業や資産ごとのCO2排出や事業の見通しを、TCFD提言に基づく報告書にも開示されていますね。

ニヴェン 資産ごとに実態と利用可能な技術を評価し、ポートフォリオ全体でより持続可能な在り方を追求していく考えです。

 また、リオ・ティントは2008年からエネルギー効率改善の目標を掲げ、約30%の改善に成功しました。また事業の電力需要のうち約71%を再エネ電力で賄っています。

 今後は2050年までの事業の脱炭素化の可能性や、電力の消費に伴うCO2の削減、エネルギー効率改善などの目標を検討します。2020年にも新たな目標を発表する予定です。

――TCFD提言が求める「物理的リスク」の特定や評価を3つ目の戦略に掲げました。将来の気候変動による温度上昇といった気象の変化や、台風や洪水など気象災害が事業に及ぼすかもしれないリスクを検討することですね。

ニヴェン 物理的リスクが事業ポートフォリオにどのような影響を及ぼし得るか、評価しています。

 我々は鉱山の開発から終了までにわたるリスクを考慮しています。その期間は100年以上に及ぶこともあります。世界の資源開発の現場について、気候変動シナリオを用いた物理的リスク評価をします。

 物理的リスクとして気温上昇リスクの他、水に関わるリスク―例えば降水量の変化や水災害、海面上昇のほか、我々の事業が自然に及ぼす影響にも着目しています。

 先日、拠点のあるオーストラリアのピルバラを訪れた時、気温が46℃に達しました。気候変動のリスクを身をもって実感しました。