聞き手/藤田 香

自然を守るために政策を総動員する「自然のニューディール」をダボス会議で提案した。産業界を巻き込み、陸と海の3分の1を保全する目標などの2020年合意を狙う。

――2019年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、英蘭ユニリーバのポール・ポールマン前CEO、ダボス会議のボルゲ・ブレンデ総裁と共同で、自然を守るための世界的な行動目標「自然のニューディール」を提唱しました。

マルコ・ランベルティーニ
WWF(世界自然保護基金)インターナショナル 事務局長
スイスに本拠を置くWWFインターナショナルの事務局長。イタリア出身。ピサ大学で製薬化学を専攻。25年以上にわたり自然保護分野に従事する。環境NGOバードライフ・インターナショナルのCEOを務めた後、2014年から現職。2019年のダボス会議で、経済界のリーダーに2020年に向けたメッセージを発信した(写真:中島 正之)

マルコ・ランベルティーニ 氏(以下、敬称略) 人類は自然資源を数十年にわたって持続不可能に使ってきました。現在、気候変動が起き、海洋や森林、河川の自然システムが不安定になっています。

 多様性が損なわれているのは科学的見地から明らかです。森林やサンゴ礁の面積は半減し、9割の魚が既に過剰漁獲かこれ以上取ると過剰漁獲になる状態にあります。野生生物はこの40年間で60%減少しました。

 この速度を遅らせ、自然資源を枯渇させない管理が必要です。食料生産の方法、エネルギーの生産と使い方、開発の在り方を根本的に変えなければなりません。政府や企業、市民が一体となってアクションを起こす必要があります。力を結集し、変革を起こすのが「自然のニューディール」です。

 2019年のダボス会議では「影響が大きいグローバルリスク」の上位を環境関連のテーマが占めました。「気候変動の緩和や適応への失敗」「異常気象」「水危機」「自然災害」が上位5つのうちの4つ。6番目には「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が続きます。

 自然の損失を食い止めることは野生生物の保護のためだけではなく、社会の安定や健全性、幸せ、繁栄のために必要だと皆が認識したのです。産業界も大きな転換が必要だと認識しました。そこでブレンデ総裁も「自然のニューディール」を支持するに至ったのです。

陸と海の3分の1を保全する

――自然のニューディールでは具体的にどのような活動を進めますか。

ランベルティーニ 2015年に気候変動のニューディール、すなわちパリ協定が提案されました。その際には世界の政府、企業、個人が合意し、気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に抑えるという世界的な目標が立てられました。

 自然のニューディールも、政府、企業、個人の賛同を取り付けます。その目的は森林や海洋、河川の保護。気候変動の2℃と同様の野心的な目標が必要です。科学者の間で浮上しつつある目標が、陸地と海洋のそれぞれ3分の1を保全するというもの。

 自然に大きなプレッシャーを与えている要因の1つは農業や漁業などの食料生産です。方向性を打ち出さないといけません。企業からの影響を減らす目標の設定を議論しているところです。

――2010年に採択された生物多様性の愛知目標では、2020年までに陸の17%、海の10%を保護区にする目標が掲げられました。これに対して、3分の1の保全とは高い目標ですね。

ランベルティーニ 減少を食い止めるには森林や海洋の3分の1を自然の状態のまま守ることが重要です。残り3分の2も持続可能に管理しないといけません。グリーンな農業、グリーンな森林管理、グリーンな食料生産が必須。保全や管理をするのに企業との連携が欠かせません。

 自然の損失を防ぐという原則には合意できても、具体的な目標の設定はこれから。2020年に中国・北京で開催される生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、愛知目標の次の「ポスト2020目標」が議論されますが、そこで合意することを目指しています。

 パリ協定のような合意を自然保護の分野でぜひ実現したいですね。政府、企業、国民を含むすべてのステークホルダーを動員していきます。

――ダボスの提案はユニリーバのポールマン前CEOと共同で行いました。事前に相談したのですか。WWFのようなグローバルなNGOは企業とどんな関係性を築いているのでしょうか。

ランベルティーニ ポールマン前CEOとは個人的に話せる仲です。事前に相談しました。ユニリーバは何年も前から環境や社会のリスクを認識し、深刻に捉えてきました。ですので、ニューディールにはすぐに賛同してもらえました。