トヨタの経営幹部とも対話

――他にも個人的に話せる企業のCEOはいますか。欧米ではNGOは力がありますが、日本ではなかなか存在感が高まりません。なぜでしょうか。

ランベルティーニ スウェーデンのイケアやH&Mの経営幹部とも個人的に話せます。企業のCEOと対話できる関係をこの10〜15年で築いてきました。

 日本企業でもトヨタ自動車の早川茂副会長とは、一昨日懇談しました。ソニーやパナソニックの経営幹部とも対話しました。

 日本でNGOが欧米ほど存在感を高められないのは文化的な背景があるからかもしれませんね。ただ、欧米でも20年前はNGOと企業の関係は簡単ではありませんでした。企業はNGOに懐疑的で恐れを抱いていました。今は持続可能性が共通課題になり、深い対話ができます。

 だからといってバラ色ではありません。企業の環境フットプリントは大きいので長い道のりがあるのは事実。とはいえ、企業側の認識がオープンになってきたのは確かです。

 日本企業も自然の問題に関するNGOとの対話にオープンになってきています。問題を共に解決しないと環境の持続可能性は守られません。企業の持続可能性にも影響するという認識が彼らの中に出てきています。企業は自然資源の持続可能性や健全性にビジネスが依拠していることを理解しています。消費者も持続可能性を求めている。この問題への認識は明らかに高まっています。

――自然資本の情報開示について、WWFインターナショナル総裁のパヴァン・スクデフさんに聞きます。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が中心となって作った「自然資本連合」は、2016年に「自然資本プロトコル」を発表しました。このプロトコルを使って、企業が自ら、自然に与える影響や便益を経済的に算出する動きが始まっています。自然資本の情報開示は今後どの方向に進みますか。

パヴァン・スクデフ 氏(以下、敬称略) 自然資本連合には現在約300メンバーが加盟しています。ユニリーバや米ウォルマート、スイスのネスレなどの企業の他、カルバート・インベストメントやCDP、GRIなどの投資家やNGOも加わっています。自然資本プロトコルに沿って、企業は自然に与える負荷や便益を把握する時代が来ています。

 自然資本ばかりか、人的資本や社会的資本への影響も評価して、企業のパフォーマンスの全体像を把握する必要があります。それを統合報告書や統合損益計算書として発表する流れが始まっています。

自然、人、社会の資本を開示へ

――統合損益計算書とはどのようなものですか。既に発表している企業はありますか。

パヴァン・スクデフ
WWFインターナショナルの総裁。ドイツ銀行に勤務していた2010年に、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で発表された報告書「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」の研究リーダーを務めた。2011年の国連環境計画(UNEP)の報告書「Towards a Green Economy」でグリーン経済の在り方に関する提言を行った。2016年にブループラネット賞受賞。2018年から現職(写真:中島 正之)

スクデフ 自然資本だけでなく、人的資本や社会的資本に及ぼす損益も計算して開示する統合報告書です。人的資本はトレーニングや教育などによって従業員にもたらした損益、社会的資本は関係性がもたらした損益を測定します。企業活動が自然、人、社会に与える影響を、資本の価値を評価して開示するものです。

 スウェーデン最大の林業会社スヴィアスコッグや、オーストラリア・メルボルン市の水道会社ヤラバレー・ウォーターが既に発表しています。私もコンサルティングに関わりました。

――気候変動の財務的リスクの開示を求める枠組み「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に沿った企業の開示も始まっています。この延長線上に、自然資本の財務的リスクの開示も始まるでしょうか。

スクデフ TCFDは気候変動の財務的な影響を評価するものですが、企業活動によって淡水、大気、土地や海、土地利用変更への影響も及ぼしています。気候変動と同様、他の影響も開示しなければならなくなるでしょう。TCFDはその方向に向かう最初の一歩だとみています。

――2020年の合意を目指す自然のニューディールで、スクデフさんが重視しているテーマがあれば教えてください。

スクデフ 農業です。農業からのプレッシャーが軽減されて初めて自然の保全は達成されるとみています。しかし、世界では農業の環境負荷が高まっています。気候変動が進めば生産性も生産高も落ちるため農業の環境負荷はますます高まるでしょう。

 1つ紹介したいのが、日本の福岡正信氏が提唱した自然農法「わら一本の革命」。インドの人口52万人の州で採り入れられています。わらや粘土団子を使う自然農法で、農家が殺虫剤や除草剤、肥料をやめて栽培を始めました。ニューディール、すなわち変革が起こせるという強力な実例です。

右がランベルティーニ氏。左はWWFインターナショナル総裁のスクデフ氏(写真:中島 正之)