――正確な科学的知識を提供することによって人々に力を与えることが重要なのですね。「The Climate Reality Project」の設立から13年が過ぎました。気候危機に対して、世界は一歩ずつでも進んできたと思いますか。

ゴア 一般の人々の意識は劇的に高まったと思います。しかしそれと同時に、世界の化石燃料への依存度は高まり続けました。エネルギーの80%を化石燃料から得ています。なぜなら経済が成長し、人口が増えているからです。しかし、危機意識の高まりが、化石燃料に依存し続けてきた国の政策を転換させるポイントに近づいています。

 危機意識は世界に広がっています。インドネシアやフィリピン、ベトナム、アフリカ諸国などでは、政府はなぜ石炭への依存度を高めるために納税者のお金を使って補助金を出しているのか、多くの人々が政府に疑問を投げかけています。

 納税者のお金を使って、未来の人類の文明に深刻な損害を与えることに対し積極的に助成している国は、世界中で3つしかありません。日本、中国、韓国です。この政策を継続することが賢明かどうかについて、日本の人々も疑問を呈することを願っています。

 今、起こりつつある大きな変化があります。太陽光や風力による発電のコストの劇的な減少です。石炭火力発電所は数年後には競争力を失って「座礁資産」になる危険があります。サブプライム住宅ローンが座礁資産になったのと同じです。回避しなければならない大きな経済的リスクであると警告することも私のメッセージの一つです。

大胆な政策転換が必要

――リーマン・ショックのことですね。

ゴア 全世界に被害をもたらした2007~08年の金融危機です。返済できない人々に何百万件ものサブプライム住宅ローンが提供されました。しかし、銀行はサブプライム住宅ローンをまとめて世界の市場で売ることによって利益を得ました。これらの住宅ローンに価値がないと人々が気づいたのは数年後のことで、そのときはすでに遅過ぎました。これが金融危機の原因です。

 現在、これと非常に似通ったことが、はるかに大きなスケールで起こっています。再生可能エネルギーによる発電コストがあまりにも急速に下がっているため、今、石炭やガスを使った火力発電所に投資すれば、数年後に座礁資産になるリスクがあります。実際、すでに世界中で石炭への投資の42%は座礁資産になっています。

 2018年、7万1000人(編集部注:日本で2018年8月5日までに熱中症で救急搬送された数)が病院に行く原因となり、2019年もさらに大勢の人が被害にあった猛暑は、地球の温暖化が引き起こしたものです。日本の科学者たちが行った研究によると、石炭などの化石燃料を燃やしたことによる地球温暖化がなければ起こらなかったことです。台風が以前より強く、破壊的になったのも、地球温暖化によって閉じ込められた熱の大部分が海に運ばれたことによるものです。

 さらに、グリーンランドや南極大陸の氷が溶けているため、以前より急速に海面が上昇しており、上昇率も年々高くなっています。ここ東京では、2℃の気温上昇によって引き起こされる海面上昇により、1兆ドルの資産が危険にさらされます。

 熱帯病は、日本やアメリカなど北半球の地域に広まっています。デング熱を媒介する蚊が、都内の公園で5年前に発見されました。過去には私たちを脅かしていなかったその他の熱帯病が、今はアメリカや日本で脅威となっています。

 このような結果がもたらされることは科学者らが20年前に言っていたことです。今、気候危機に対処しなければ将来になにが起こるのか。科学者が鳴らす警鐘にもっと注意を払うべきだと私は思います。

 日本は、アメリカ、中国、ヨーロッパとともに、リーダーシップを発揮することを世界から求められている国です。石炭関連産業の抗議が強くても、私たちは乗り越えなければなりません。

 石炭を燃やすことは地球温暖化の原因になるだけでなく、世界中で毎年900万人が死亡する大気汚染の原因にもなっています。つまり、健康のためにも、経済のためにも、競争力のためにも、道徳的理由のためにも私たちは変革を進めなければならないのです。私たちは、若い世代の人々に、あなたの未来を破壊することはしないと言えるようにすべきです。

――日本企業はさまざまなテクノロジーによって環境問題、気候問題に取り組む潜在的な力を持っていると思います。今後、それが実現するでしょうか?

ゴア そうですね、日本企業の高い技術力による成功は、長年にわたって世界中の人々を感心させてきました。ただ、私の国と同様に、石炭や石油に依存してきた旧来型産業の政治的な影響力を重視しすぎて、政府は未来についての明確なビジョンではなく、過去の教訓に基づいて政策を立てることがあります。

 太陽光や風力による発電のコストは、年々下がっています。バッテリーや電気自動車(EV)の効率化やさまざまな改善のためのコストも同様です。これらのテクノロジーは、もちろん未来の要です。しかし、先ほどお話したように、古い産業が持つ政治的影響力のために、未来の産業が不利になることがあると思います。