聞き手/藤田 香

消費量が世界最大の植物油「パーム油」に投資家からの注目が高まっている。最近起きた認証取り消し事件や認証基準の改定をRSPOトップが語った。

――持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)に加盟する日本企業が増えています(2019年9月末時点で166社・団体)。なぜでしょうか。

ダレル・ウェーバー
持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO) CEO
WWFインターナショナルでパーム油エンゲージメントのシニア・マネジャーとしてシェル・マレーシアなどの企業を担当。2007〜2009年には環境NGOを代表してRSPOのエグゼクティブ・ボード・メンバーを務めた。その後、Global Sustainability Associatesにて農業開発を行う企業や組織へのコンサルタントとして活躍。2011年にRSPOのCEOに就任。RSPOの事務局はマレーシアのクアラルンプール(写真:中島 正之)

ダレル・ウェーバー 氏(以下、敬称略) 2020年、東京五輪が開催されることが大きいです。「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」が策定され、菓子や食用油に使うためRSPO認証を取得したパーム油を調達したい食品会社の加盟が増えています。もう1つの理由は資源エネルギー庁によるバイオマス発電のガイドライン改訂です。パームを使う際に認証パームを使うことが規定され、バイオ燃料の企業の加盟が増えました。

――日本では化成品や化粧品の企業が2005年頃からRSPOに加盟してパーム油問題に取り組んできましたが、食品会社はようやくですね。

ウェーバー 確かに世界と比べると遅れているかもしれませんが、サラヤ、花王、資生堂、日清食品ホールディングスなど先進的に取り組む企業も増えています。最近、RSPOの理事に初めて日本人が加わりました。イオンの三宅香・執行役です。日本がアジアを牽引する市場になっていくことを期待しています。

小規模農家に新たな基準

――2018年11月に、RSPOは基準を5年ぶりに改定しました。その理由は。

2018年11月のRSPO総会では認証の基準を改定し、環境や人権上の基準を強化した
(写真:WWFジャパン)
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ウェーバー RSPOはフェアトレードやFSC(森林管理協議会)など認証を提供する団体が集まる「ISEALアライアンス」に加盟しています。同アライアンスでは認証基準を5年に1度見直すことを義務付けており、改定はそれに従ったものです。

 改定で強化したポイントが3点あります。森林破壊ゼロの完全実施、泥炭地開発の完全禁止、人権・労働の権利の強化です。人権・労働については、国が定める最低賃金を上回って人間らしい生活が送れる水準の賃金を支払うことを定めました。

 さらに重要な改定がもう1つあります。小規模農家に対し、RSPOの基準を変えることにしました。インドネシアではパーム農家の約6割、マレーシアでは約4割が小規模農家です。インドネシアでは森林減少の大きな要因が小規模農家によるパーム栽培。しかし彼らの認証取得は進んでいません。取得を促進するために新たな基準を設けます。

 森林破壊ゼロという大原則は変わりませんが、小規模農家が3段階のステップを経て認証取得に向かう制度を設計中です。現在、ステップごとの基準の要件を決めています。

――基準強化の背景には、認証取り消し“事件”も関係しましたか。2018年、インドネシアの食品大手インドフードの農園と搾油工場で人権侵害があり、RSPOは認証を取り消す制裁措置を下しました。2016年にはマレーシアのパーム油生産大手IOIグループによる天然林伐採が発覚し、認証を取り消しました。こうした事件はなぜ起きたのでしょうか。

ウェーバー インドフードやIOIのような大きな企業の場合、数百haにも及ぶ農園と何千人もの従業員を抱えているため、彼らの一人ひとりにRSPOのルールを周知させ、確実に守らせるのは難しいことです。制度があっても実効力が伴わず、ルール違反を犯すことがあります。「実施」は「設計」通りにいかないものです。