1.5℃と2℃では何が違うのか

 IPCCは2018年10月、「1.5℃特別報告書」を発行した。気候変動の影響が気象などに表れ始めている途上国などからIPCCによる報告書の作成が望まれていた。

 既にいま、人間の活動により世界の平均気温は産業革命前と比べて約1℃上昇した。このまま温暖化が進めば2030〜52年の間に1.5℃に到達する。今、温室効果ガスの排出量を一切止めれば、気温上昇は1.5℃未満にとどまるとみられる。

1.5℃でも大きな影響

甲斐沼 美紀子氏
地球環境戦略研究機関​ 研究顧問​
低炭素社会国際研究ネットワーク事務局長(写真:鈴木 愛子)

 気温上昇を1.5℃にとどめると、2℃の場合と比べて極端な熱波や豪雨が少なくなる。2100年までの海面上昇は、約10cm低く抑えられる。バングラデシュでは海面上昇で塩水が陸地に流れ込み、農作物が枯れるなどの塩害が生じている。1.5℃なら海面上昇の影響を受ける人口が1000万人減る。

 サンゴ礁への影響は大きい。1.5℃なら70〜90%が消滅の危機、2℃なら99%でほぼ全滅する。打撃を受けるのは観光業だけではない。国立環境研究所によれば、プランクトンをはじめ約9万種の生物がサンゴ礁に生息する。9万種の生物のすみかが失われれば、これをエサにする魚介にも影響が及ぶ。低緯度地域の小規模な漁業の打撃となり人々の生活を脅かしかねない。

 農作物の収量も変わる。1.5℃なら特に東南アジア、中南米でトウモロコシやコメ、小麦の減産を抑えられる。食料の減産による影響を受ける人口は3200万〜3600万人。2℃ならその約10倍、3億3000万人以上に膨れ上がる。これこそ1.5℃を目指す最大の理由だろう。

 品種改良や灌漑による適応で対応できるケースもあるが、水不足なら灌漑が進まない。水ストレスにさらされる人口は、1.5℃なら4億9600万人、2℃なら5億9000万人となる。

 世界のほぼ全域の沿岸で定住できるエリアが狭まる。特にアジアや小島しょ国への影響が大きく、1.5℃に抑えても3100万〜6900万人の住居がリスクにさらされる。同様に1.5℃に抑えても、3億5000万人以上が致命的な熱波で健康被害を受けると予想される。南アジアの気候変動に脆弱な人(1日の収入が10ドル以下)の暮らしに打撃となりそうだ。

■ 気候変動による影響​
出所:IPCC「1.5℃特別報告書」(第3、4、5章)国際応用システム分析研究所ラインハルト・メヒラー氏の資料​
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どうやって1.5℃に向かうのか

 1.5℃の実現にはこれまでにないスケールの急速で幅広い対策が必要だ。すべての部門での温室効果ガス削減のための行動と技術の採用が要る。行動様式も変えなければならない。また、森林保全など土地の利用や管理を持続可能にすることに加え、経済システムの転換と低炭素型の選択肢の採用を支える投資が急務だ。

 再生可能エネルギーの導入は、他の技術に比べて進んだ。化石資源を使う産業も、化石資源を使わないようにする技術革新を免れない。

 大気中のCO2を直接回収する技術「DAC」の開発も進む。だがDACの本格採用に先駆け、植物や藻類にCO2を吸収させバイオマス燃料として使い、排出されるCO2を地中に埋める「BECCS」の実用が必要という。ただ、これらは高いコストが課題だ。