2040年排出ゼロなら1.5℃に

 パリ協定の下、各国が2030年や2050年の温室効果ガス削減目標を発表している。だがすべての国が目標を達成しても1.5℃に手が届かない。

 2040年頃までにCO2排出をゼロにできれば、気温上昇が1.5℃にとどまる可能性が高まる。CO2以外の温室効果ガスであるメタンは廃棄物処分場やウシのげっぷからも排出されるため削減が難しい。適切に管理して2030年以降は減らす必要がある。CO2排出量を2055年までに正味ゼロにする場合は、1.5℃にとどまる可能性が50%程度の確率まで下がる。

IPCC「1.5℃特別報告書」​

 また1.5℃報告書は、将来の世界の姿を示す4つのシナリオ(P1〜P4)を示した。シナリオごとにCO2排出がどのように増減するかも予想した(6ページの図参照)。

 社会やビジネスが低炭素化し、技術革新が成功したエネルギー需要が少ない社会になるシナリオ(P1)では、高コストのCO2回収・貯留(CCS)やBECCSが不要だ。とはいえ、大規模な植林が必要で、産業からの排出も大幅に、早期に縮小することになる。

 反対に資源とエネルギーを積極的に利用しCO2排出の多い交通燃料や生活用品の利用が進む化石燃料依存型の社会になるシナリオ(P4)ではBECCSやDACといったコスト高の対策に大きく依存する必要がある。

 「循環型社会」と呼ぶシナリオ(P2)は、世界が目指す将来の姿と言えるだろう。エネルギー需要を減らし、石炭火力から再エネやエネルギー効率改善に投資先を転換して、2020年から世界で排出量を減らし始める。また、大規模な森林によるCO2の吸収やCCS、BECCSも用いて、2055年に排出をゼロにする。

 推進力となるのがESG投資や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、科学に整合した削減目標(SBT)、事業に必要な電力を再エネで賄う「RE100」などだ。

2℃より12%コスト増

 1.5℃報告書は対策コストにも言及した。化石燃料の採掘事業への投資が減り、再エネや省エネに対する投資が増えるとみられる。エネルギー関連投資だけで2016〜50年に毎年平均1兆4600億〜3兆5100億ドル、エネルギー需要改革への投資は6400億〜9100億ドルという。

 現状の気候変動対策を続ける場合と比べて、同8300億ドルの追加投資が発生する。2℃に抑える場合と比べると12%程度のコスト増となる。

 また報告書は、技術や政策などの様々な選択肢について、その実現可能性を評価した。例えば風力発電は技術的、経済的にある程度、実現可能性を見込める。太陽光発電も見込みがあるが日射量や普及拡大政策によって経済性に差が付くという。

 報告書はさらに、温暖化対策とSDGs(持続可能な開発目標)との両立も指摘している。

 例えば再エネの利用拡大は、食料安全保障とのトレードオフを招きかねない。バイオマス燃料の増産のため森林など原料栽培で水の消費が増えれば、人々はいっそうの水ストレスにさらされる。また、温暖化が進み農畜産業の適地が減っていく中、バイオマス燃料の栽培や太陽光発電の大規模導入は、農地との競合が考えられる。

 単に気温を下げるだけでなく、食料安全保障や生物多様性への影響、その恩恵を受ける人々の生活を守るところまで目配せすべきだ。 (談)