食料生産地の気温変化はリスク

高野 真之氏
みずほ情報総研​ コンサルタント​(写真:鈴木 愛子)

 気温上昇による農林水産物などへの影響について解説する。甲斐沼先生も解説されたが、IPCC「1.5℃特別報告書」によれば人間活動によって世界全体の平均気温は産業革命前と比べて約1℃上昇した。現在の速度で気温上昇が進めば、2030〜52年の間に同1.5℃上昇するという。

 日本はどうか。我々の推計では現在の気温上昇を維持し続けると、2030年より前に気温上昇は同1.5℃に達するとみられる。日本の平均気温の上昇は2006〜15年に10年当たり0.25℃の割合で上昇した。この速度で気温が上昇すれば2030年よりも前に同1.5℃に到達すると推計される。

 2016年の日本は1.5℃上昇した場合の気候に近い状況だった。台風7、9、10、11号が大雨・暴風をもたらし、北海道に上陸した台風もあった。

 また、梅雨前線により九州地方の広い範囲で6月の約10日間に総降水量が500mmを超す大雨をもたらした。7〜9月には4万4000人の熱中症患者が救急搬送された。1.5℃上昇の世界では同様のことが起こり得る。

 気温が上昇すると農業生産にどのような影響が及ぶか。国内の農作物と畜産物、海産物を対象に、将来の気候変動による影響予測に関する文献を精査した推計を紹介する。

 農産物は水稲、テンサイ、ミカン、リンゴなど23品目(国内総生産量の約75%に相当)、畜産物は豚と食用鶏、生乳、海産物はカツオやマダイ、ズワイガニ、養殖ノリなど10品目に関する研究を整理した。

 対象となった農作物や畜産物、海産物の生産・漁獲量の合計は、1.5℃上昇の時には2017〜18年の生産・漁獲量の合計と比べて98%まで2%減る。2℃では97%まで、4℃の場合は82%にまで下がる予測となった。

 世界ではどうか。我々は、小麦やコメ、トウモロコシのほか畜肉と乳製品、回遊魚など国連食糧農業機関(FAO)による2000年の世界の食料生産73億tのうち60%に当たる44億tを対象に試算した。

4℃上昇なら食料生産8割に

 1.5℃上昇の場合、93%まで食料生産が減る。2℃なら90%程度まで、4℃なら79%まで食料生産が減るとみられることが分かった。

 海外の特定の国の、特定の農産物を対象に調査することもできる。例えば、米国のトウモロコシ生産量の試算も可能だ。1.5℃上昇の場合、1986〜2005年の平均と比べて93%まで減り、2℃なら87%、4℃なら62%にまで減りそうだ。

 研究論文さえあれば、アイオワ州やアラバマ州、カンザス州など州を限定した予測も可能だ。トウモロコシを輸入する企業はこうした情報を基に1.5℃や4℃の場合のリスクを検討できる。さらに製品ごとに米国産トウモロコシ利用量を考慮することで、製品単位でリスクを把握できる。売上高を考慮すれば財務的なインパクトも把握できる。

 当社は、1.5℃や2℃、4℃に気温上昇した場合の物理的な影響やリスクを評価している。農作物に対する物理的リスクの調査であれば農産物の品目ごとや生産国ごとに将来の気温上昇による影響を予測した研究文献などを調査する。

 さらに、農業技術に関する研究の有無、特に気候変動の影響を軽減するための技術がその産地で導入されているかどうかを確認し、その文献も考慮してリスクを評価している。

 気温が1.5℃上昇した場合の物理的なリスクは、現状よりは高まるが2℃よりは低い。農産物や畜産物、海産物を活用する企業は、TCFDへの対応として、物理的リスクを評価し、戦略を持つことが今後、重要になるだろう。

 だが、TCFDへの対応にも使えるような、企業が調達している特定の国・地域や農産物などに対するリスクを具体的、定量的に把握するにはIPCCの「1.5℃特別報告書」や「第5次評価報告書」のような、様々な研究成果を1つに集約した報告書からは読み取りづらいのも事実だ。専門の研究文献を精査する必要があろう。(談)