自治体、企業の行動が変わった

 今夏も大変な猛暑だ。南フランスでは45.9℃を記録した。体温よりはるかに高い気温上昇が世界を襲っている。このままでは世界平均気温は産業革命前と比べて4℃程度の上昇が予測される。世界平均気温が4℃上昇すれば、東京は5℃上昇するという。

 アジアでは洪水被害、熱中症、干ばつによる水や食料の不足が懸念されている。気温上昇をたとえ2℃に抑えてもリスクは非常に高い。猛暑や豪雨に対する備えも同時に必要だ。

IPCC報告書が転換点に

小西 雅子氏
世界自然保護基金(WWF)ジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー)
(写真:鈴木 愛子)

 さて、IPCCが2018年10月、「1.5℃特別報告書」を発表した。私は世界の国際NGOと協力して発表の半年前から世界のWWFに所属する科学者らと準備をしてきた。報告書が出た途端に「1.5℃の達成は不可能。温暖化対策は無意味だ」という論調が、世界に広まるのを防ぐためだ。

 ところが報告書は、我々も驚くようなポジティブな影響を国際社会に及ぼした。国同士の国際交渉、そして企業や都市、自治体などの非国家アクターが、1.5℃に向かう取り組みに踏み出す推進力となった。

 なぜなら報告書は、1.5℃に気温上昇を抑えればそれだけ影響が軽減されると白日の下にさらした。

 例えば洪水リスクにさらされる人口は、1.5℃では今の2倍、2℃では2.7倍になる。同じ研究によれば、4℃上昇なら6.7倍に膨れ上がるという。今のままより2℃の方がましだが1.5℃ならさらに影響が軽減する。

 このまま4℃上昇した場合と2℃に抑えた場合を比べるとかなりの差があることは以前の報告書で分かってはいた。加えて、1.5℃と2℃でも大きな差があるという。また既に人間の活動で1℃上昇しており、早ければ2030年に1.5℃上昇すると示した。

 加えて報告書は、2070年頃に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすれば2℃未満に抑えられ、2050年に早めれば1.5℃も達成は可能と示した。2070年に排出ゼロにするのすら、ものすごく難しい。これを「ほんの20年早めれば」などとはとても言えない。ただそれでも、報告書によれば可能だという。

 報告書の発表後、先進的な国が1.5℃に沿った長期戦略を打ち出すレースのような状況が始まった。

 報告書が発表された翌月の2018年11月、EUは2050年までの炭素中立の実現を目指す戦略的展望を検討すると発表。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2050年にカーボンニュートラルを目指すという。英国も2019年6月、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を法制化する方針を示した。ドイツも石炭火力発電からの撤退を決めた。

 実は1.5℃報告書の発表以前に、国連に長期戦略を提出していたドイツやフランス、オバマ政権下の米国などは、その時はまだ1.5℃目標を意識した「2050年の排出実質ゼロ」を掲げていなかった。これらは報告書を踏まえた変化と言える。

 国際的な気候変動対策の行方を、全会一致で取り決めを採択するCOPでの政府間交渉に任せたままでは、誰もが合意できる取り組みにとどまりがちだ。そこで都市や自治体、企業といった非国家アクターが中心となって先進的に取り組む動きが活発になっている。

 例えば米カリフォルニア州、米ハワイ州は2045年の温室効果ガス排出の実質ゼロを目指している。世界の気候変動対策に熱心な都市が参加する「C40(世界大都市気候先導グループ)」や、「世界気候エネルギー首長誓約」というイニシアチブが発足し、勢力を拡大している。

 また、「カーボンニュートラル都市アライアンス」には、デンマークのコペンハーゲン市、米ニューヨーク州など19都市が参加する。日本からも横浜市、京都市、東京都が参加しており、2050年排出実質ゼロを目指す都市は増え続けている。

 最も知られる非国家アクターのイニシアチブは、米国の「We Are Still In」だろう。

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COP24の会場では「非国家アクター」と呼ばれる企業や自治体などの国際イニシアチブがイベントや活動を展開した
(写真:WWFジャパン)

 米国連邦政府がパリ協定からの脱退方針を示したのと同時にこのイニシアチブが発足し、米国の自治体や都市、企業、大学がパリ協定に残る意思を示した。現在、約3800の組織が参加している。例えばカリフォルニア州、ニューヨーク州、アマゾン、アップル、マイクロソフト、ウォルマートなどだ。

 日本でも自治体や団体、 NGOなどが参加する「気候変動イニシアティブ」があり、参加団体が400以上に拡大した。WWFジャパンも運営委員会のメンバーを務めている。

 「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」という企業イニシアチブもある。JCLPと「RE100」の双方に参画する企業は、国内の2030年の電源構成における再エネ比率を50%に引き上げる目標を設定すべきと政府などに提言した。RE100は事業活動による電力需要の100%を再エネで賄うことを目指す企業イニシアチブで世界の約200社、日本から25社がRE100を宣言している。