1.5℃は“極論”でなく主流

 こうした話は、一部の企業に限ったことと映るかもしれない。だが、1.5℃に向けて取り組みを進める世界の流れは、意欲的な企業にとって機会となるだけでなく、他の企業にとってリスクにもなる。

 例えば石炭関連事業を手掛けるケースだ。1.5℃報告書によれば、1.5℃実現には石炭消費量を急激に減らし、2050年にゼロにする必要がある。

 そのため、国際NGOが中心となり石炭の利用廃止を訴え始めたが、今では政府レベルの検討課題になった。脱石炭を掲げる英国とカナダが始めた「脱石炭連盟(PPCA)」には、石炭火力発電の段階的廃止を目指す企業や地域が続々と参加している。

 石炭火力の利用にとって脅威となるのが、保険会社が石炭火力発電から投資を引き揚げ始めたことだ。特に影響が大きいのは、再保険会社のスイス・リーが投資引き揚げを決めたことだ。再保険が受けられなければ保険会社はリスクを取れず、石炭火力から手を引かざるを得なくなる。日本の保険会社も、機関投資家として石炭火力に対する投資や融資の方針を新たに示し始めた。

 また、日本の金融機関は、石炭火力の新規建設に融資していることから世界的な批判が集まっているため融資の廃止や制限を表明し始めた。

 企業が1.5℃に向かうもう1つの推進力になりそうなのが、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)だ。企業は、将来の気候や政策、社会などに関するシナリオを使って自社のリスクと機会を評価する。企業が使う将来シナリオには、IPCCの2℃達成シナリオ(RCP2.6)の他、国際エネルギー機関(IEA)の新政策シナリオ(NPS)や持続可能な開発シナリオ(SDS)などがある。将来の事業を展望するのに使いやすいのは、IEAのシナリオだろう。

 だが、IEAは1.5℃目標を達成する場合のシナリオを示していない。NPSは3℃上昇、SDSは2℃程度である。そこで、ドイツの保険大手アリアンツ、インドのマヒンドラ・グループの経営者など世界のビジネスリーダー60人が、IEAに1.5℃シナリオの作成を要請した。IEAが1.5℃シナリオを公表すれば企業はTCFD提言にのっとってシナリオ分析する時にこれを無視できなくなり、おのずと1.5℃を踏まえた将来戦略を検討せざるを得なくなろう。

 正直に言って1.5℃目標は、当初は国際NGOや島しょ国による極論と思われていた。それが今では国際交渉の主流、世界の潮流となった。企業も「1.5℃は極論」とみているようでは、世界の流れを見誤るだろう。