投資家はどの企業が勝つかを見る

吉高 まり氏
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 環境戦略アドバイザリー部 チーフ環境・社会(ES)ストラテジスト(写真:鈴木 愛子)

 投資家が気候変動対策にどのような認識を持っているか、現状について話したい。一般に、投資家が環境(E)や社会(S)への関心を高めるのはこれからだろう。多くが、パリ協定の1.5℃や2℃といった目標について腹落ちしていないとみている。

 ただ、国内では環境に配慮する企業に投資するエコファンドを個人投資家向けに提案してきた資産運用会社などはEとSによる企業価値評価を既に採用している。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)から受託している資産運用機関もEやSの評価に取り組んでいる。SDGsへの関心も高まっているようだ。

 2018年頃からは日本で気候変動の情報を求める投資家がさらに増え、国内の投資家や運用会社に対し、気候変動対策は、企業価値評価の際に注目すべき環境対策の「1丁目1番地」と説明することが増えた。

1.5℃求める投資家も登場

 欧米では2005年頃から、投資先企業とのエンゲージメントを長期投資家に求めるNGOが急増した。今は1.5℃もその主要なテーマとなった。今後、欧米の投資家から企業に対し1.5℃への貢献を求めるエンゲージメントが始まる可能性がある。

 例えば2019年1月、ESGを推進する12の企業や団体が、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックに対し、投資先企業とのエンゲージメントで1.5℃以下への貢献を求めるように要請した。要請したのは、米資産運用会社のボストン・コモン・アセット・マネジメントとトリリウム・アセット・マネジメント、NGOの英シェアアクション、米アズ・ユー・ソーなどだ。

 世界370以上の機関投資家によるコンソーシアム「クライメートアクション100+(CA100+)」も同4月、NGOから要請を受けた。CA100+は投資先企業に対して気候変動対策を促す共同エンゲージメントを実施しており、資産運用総額は33兆ドル(約3600兆円)に及ぶ。グリーンピースなどが投資先企業との間で1.5℃への貢献を求めるエンゲージメントの強化を要請した。CA100+は、160社を超す世界の大手企業をエンゲージメント対象に指定しており、日本企業も含まれる。欧米企業だけでなくアジアなどへ対象が広がる。

 米カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)や米カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)という巨大年金基金にも、NGOがカリフォルニア州の「SB964」法案に基づき1.5℃を考慮したリスク評価と情報開示を要請した。気候変動が資産に及ぼす影響を特定、分析することを求める法案である。

 NGOのプレッシャーに、機関投資家も応え始めた。資産総額34兆ドル(約3700兆円)、世界477の投資家が参加するインベスターアジェンダというグループは、2019年の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の開幕に際して世界の政府代表に対し、1.5℃に貢献する温室効果ガス削減目標の設定を求めた。

 米フィデリティ・インベストメンツや米ステート・ストリートといった大手資産運用会社が、米NGO・セリーズの総会で「科学に基づく温室効果ガス削減目標(SBT)」を議論していたことには驚かされた。

 また、投資家がパッシブ運用に用いるある指数の責任者は、企業による1.5℃への対応を指数の作成の際に考慮する方針を明かしている。

 年金基金や保険会社のように数十年後の利益を考える長期投資家は、気候変動は重要なリスクであり、機会にもなると捉えている。ただ、投資家は情報がなければ企業を評価できない。野心的な目標を掲げれば投資家が評価するということでもない。

 脱炭素社会への移行や、気候変動による物理的リスクが予測されるなか、投資家はどの企業がイノベーションによって新市場で勝つのかを見ている。企業として成長シナリオを描き、リスクに備え商機に変えられるレジリエンスを備えているか。これを伝えることが必要だ。