日本企業の競争力を引き出す

高瀬 香絵氏
CDP Worldwide-Japan シニアマネージャー(写真:鈴木 愛子)

 CDPはSBTイニシアチブの運営に参画し、パリ協定とIPCCなど科学的な知見に基づいた目標設定を企業に求めている。

 世界で685社、日本では81社がSBTの設定を目指すと表明し、SBTの基準を満たす十分に意欲的な目標を掲げて認定された企業が世界で296社、日本で55社ある。

 SBTの認定を受けるには、まずはスコープ1と2について基準を満たす目標を設定する必要がある。

 2019年10月からSBT認定の基準が変わる。スコープ1と2の総量削減率は、9月までは年率1.23%だったが、10月からは年率2.5%以上の削減を求める。2018年を基準年とする場合、2030年までなら、これまでは15%減だったが、今後は30%減が最低基準になる。SBTの最低条件は1.5℃ではなくパリ協定にも掲げられたWB2D、だいたい1.75℃だ。とはいえ、年率4.2%の削減を目指す企業は1.5℃に貢献するSBTを設定した企業として認定する。

 理由は1.5℃報告書だ。1.5℃に抑えられれば、2℃の場合と比べて大きな違いがあると我々は捉えた。森林火災が大きく減少し、水不足に苦しむ世界人口が約半分になるなど気候変動の影響や被害を抑えられる。

 1.5℃に抑えるには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量をおおよそ半減する必要があり、2050年までにネットゼロ(排出実質ゼロ)にする必要がある。1.5℃に抑えるための方策は2℃の場合と同じだが、より広範囲にスピーディに対策を実装する必要がある。また、より迅速かつ広範囲にわたって社会システムを脱炭素に移行させることが必要になる。そして、1.5℃に抑えることは、パリ協定が策定された気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で想定されたよりも重要で、今後10年でどれだけの行動を起こせるかが鍵となる。

 我々は、企業がSBTを設定することで社内でイノベーションが起きたり、投資家の信頼が得られたりして企業価値が高まり、好循環が生まれることを期待している。また、投資家にとってSBTの認定を受けた、または設定を目指していることは分かりやすい目印になる。SBT認定を受けるには厳しい基準があるからだ。

金融機関にもSBTを要請へ

 さて今、2020年半ばから始まる金融機関向けのSBTの方法論を策定しているところだ。銀行、年金基金、保険会社、公的金融機関が対象になる。現在、世界で50社、日本では4社の金融機関がSBT設定を約束した。金融機関も投融資のポートフォリオのCO2排出量を定量化し、低炭素化させることが求められる。また他に、投資対象のうち資産または排出量で30%などの比率以上(比率は未定)の企業などに対し、SBTに相当する削減目標を設定するようにエンゲージメントする方法もある。

 気候変動対策については、どれだけコストをかけて取り組むかという議論が付き物。ただ、コストの議論には、対策や技術がもたらす付加価値という観点を入れるべきだ。事業による電力需要の100%を再エネ電力で賄うことを目指す「RE100イニシアチブ」に参加する企業には、電力を質で選び、質がいいものは価格が高くても買うという考えもある。

 イノベーションでコストを下げることは重要だ。また、今できる対策と、今後どのようなイノベーションが必要かは見通しが立っているという指摘は、CDPも同じ考えである。ただ、やるべきことが決まっているなら、そこには競争が生まれる。イノベーションの競争、そのサプライヤーとして選ばれる競争、投資を呼び寄せる競争でもある。これらの競争は始まっていると思う。

 我々の懸念は、日本が温室効果ガス削減に舵を切らず、再エネ価格が高いままでは、企業が競争力を失うのではないかということだ。CDPジャパンは、日本がイノベーションで貢献しながら、経済的にも発展できるように企業を支援したい。