企業が選べる4つの対応策

柴田 昌彦氏
みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 シニアコンサルタント(写真:鈴木 愛子)

 日頃、企業の環境対策を支援している。ここまでの議論を受け止め、企業の対応について話したい。

 SBTの基準変更をおさらいすると、2019年9月までは温室効果ガスを年率1.23%で減らせばSBTと言われた。これがWB2Dの同2.5%、1.5℃の同4.2%が新たな基準になった。

 年率2.5%減はすさまじい数字だ。SBTは5〜15年先を目標年にするが、これを単純に延長すれば旧来の2℃のSBTなら80年後に排出実質ゼロだった。だがWB2Dは40年後、1.5℃は25年後に排出実質ゼロだ。経営層に「25年後に排出ゼロを目指しましょう」とは言いづらいだろう。

 そんな中、2019年7月末に世界の企業28社が1.5℃への貢献を約束した。さて、世界は本当に1.5℃を目指すのか、1.5℃目標を掲げなければ評価されず、生き残れないのか。

 投資家には、①投資の力で世の中を良くしたい、②そんな人と思われたい、③新しい変化に対応せずに損したくない、ESGを考慮してリターンを得たい――と3パターンありそうだ。WB2Dは、パリ協定で世界目標になったため③の人も資金を張る。だが、1.5℃に張るのは①の人だ。吉高さんの話では、NGOの要請で一部の投資家が動いているのが実情。今後、①や②だけでなく③も巻き込めるかは、政策次第だ。

 投資家はユニバーサルに、企業を横並びに評価することもある。この時、業界初で1.5℃に取り組んで得られるベネフィットもある。これが必要ない人は様子見してはどうか。

 また、1.5℃について入り口で拒否する人も多いが、もったいない。1.5℃水準の目標はとても厳しく現実感に乏しい。だが、「気候正義」の論理の下、現在の努力目標ではなく世界目標になる可能性はゼロではない。そうなれば政策も動く。

 また、世界目標にならなくとも、1.5℃実現に必要とされる大規模なCO2除去技術は、1.5℃目標とは関係なく世の中に実装され得る。1.5℃も、2℃も3℃も無理かもしれない。それでも、人類はイノベーションに注力するだろう。

 吉高さんは「次の技術で勝つ会社はどこかを投資家は見ている」と話した。温度目標を掲げるかどうかとは別に、成長するために1.5℃の世界で取り組むことを、どの企業も検討しておくべきと思う。だから、1.5℃など無理だと思考停止せず、シナリオ分析をしてみることだ。

不確実な未来の戦略描け

 1.5℃に取り組めば、ステークホルダーの評判が上がる「レピュテーション」のベネフィットは得られる。だが、1.5℃を目指す国際合意はなく、規制もない。多くの投資家らは1.5℃までは見ていない。この現状で、企業のアプローチは4つあろう。1つ目は、レピュテーションを得やすい企業はいち早く1.5℃宣言する。例えばエネルギー消費がほぼ電力で、総コストに占めるエネルギー比率が低く、RE100も狙えて25年後に排出ゼロにできる企業だ。1.5℃目標で他社と差を付けられる。

 2つ目のアプローチは、2℃目標にしっかり取り組む。ただ2019年9月までのSBTではなくWB2Dがいい。パリ協定で世界目標となったからだ。

 シナリオ分析も必要だ。1.5℃報告書通りに削減カーブを描けるかではなく、この報告書に対し、世の中がどう反応するかを考える。

 1.5℃にもWB2Dにも取り組まない3つ目のアプローチでも、温室効果ガスはしっかり減らす。ESG投資で必ず見られるのは、SBTよりむしろ「炭素強度」だ。そしてアプローチの4つ目として、CDRをはじめとする脱炭素の新技術イノベーションに貢献すると宣言することだ。

 世界の削減が進み、1.5℃実現の軌道に乗るかもしれない。一方、削減が進まず3℃を世界目標にして適応しようとの主張が出る未来も考えられる。未来が不確実であることを踏まえ、様々なパターンを想定するしかない。そんな意味で今ほどシナリオ分析が求められる時期はないだろう。