聞き手/藤田 香

ESG情報開示の枠組み「SASB」を採用する企業が2018年から増えている。SASBは投資家が望む情報の開示を企業に促す。

――SASB(サステナビリティ会計基準審議会)はブルームバーグ創業者のマイケル・ブルームバーグ氏が名誉会長を務める団体です。2018年11月、投資家が投資判断に使えるようなESG情報開示の枠組み「SASBスタンダード」を発表しました。どんな枠組みですか。

ケイティ・シュミッツユーリット
SASB(サステナビリティ会計基準審議会)ディレクター、投資家アウトリーチ
米カリフォルニア大学バークレー校で日本語の学士、フランスのINSEAD(インシアード)でMBAを取得。サステナビリティの分野で25年以上活躍。SASBには発足時から参加しており、SASBスタンダードやツールへの投資家の認知度向上を促し、投資家アドバイザリーグループのマネジメントにも携わる(写真:中島正之)

ケイティ・シュミッツユーリット 氏(以下、敬称略) SASBは、産業界を11セクター77業種に分けて、業種ごとに財務的インパクトを与える重要なESG開示項目を定めています。それぞれの項目に対し、こんな基準でこんな数字を開示しようという指標も示しています。企業は、自らの業種で指定された指標に従って情報を開示すればよいのです。

――多くの日本企業は統合報告書やサステナビリティレポートの中で、ESGの情報を開示しています。この情報開示とSASBスタンダードを用いた開示は何が違いますか。

シュミッツユーリット 投資家が活用できる情報かどうかという点です。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査によれば、G250(フォーチュン500における上位250社)の企業の90%がサステナビリティレポートを発行し、その約80%がGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のガイドラインを使って開示しています。

 ところが、投資家に質問すると、企業の開示情報と自らが求めるサステナビリティ情報に関係性があると答えた投資家は8%しかいませんでした。つまり両者の情報は乖離しているのです。企業の開示情報は投資家が求めるレベルに落とし込まれていません。その橋渡しをするのがSASBです。SASBの枠組みで開示すれば、投資家の欲しい情報に落とし込むことができます。

――SASBスタンダードを使って開示している企業は既にありますか。

シュミッツユーリット 米ゼネラル・モーターズや米ナイキ、NTTなど69社あります(2019年6月時点)。加えて、SASBの導入を検討している企業や、報告書の中でSASBに言及している企業が増えています。SASBスタンダードの草案が出てから増え、2018年は約300社に上りました。2019年は第1四半期だけで約300社。飛躍的に伸びています。2018年11月に正式版が発表され、一気に勢いがつきました。こういう企業は厳密にSASBで開示しているわけではないものの、「マテリアリティを考える際にSASBスタンダードを参考にした」と発表しています。

 SASBスタンダードはウェブサイトで公開していますが、ダウンロード数は20万を超えました。その約50%が米国でのダウンロードですが、アジア太平洋地域も15%を占め、大半が日本です。