40以上の投資家が活用

――SASBに基づいた情報開示を投資判断に活用している投資家はいますか。

シュミッツユーリット はい。SASBには投資家のアドバイザリーグループがあり、40以上の投資家から成ります。資産総額は32兆ドル。米国のカルパースやノルウェーのNBIM(ノルウェー銀行投資マネジメント部門)の他、米ブラックロックなどの運用会社も参加しています(本誌注:2019年5月にニッセイアセットマネジメントも参加)。

 彼らは投資判断にSASBスタンダードを活用し、企業にはSASBを使いましょうと提案しています。

――投資家はSASBをどのように投資に活用するのでしょうか。

■ SASBスタンダードの「不動産」の例
SASBが不動産の業種に求める開示。左から「開示すべきESG項目」「ID」「指標」「単位」
(出所:GPIF委託調査研究「ESGに関する情報開示についての調査研究」(ニッセイアセットマネジメント))
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シュミッツユーリット 投資家がある業種の企業を評価するとしましょう。例えば不動産。財務に影響を及ぼす重要なESG項目として「エネルギー管理」や「水資源管理」などをSASBが定めています。これらは財務諸表や損益計算書の売上高や営業費用、営業外費用、アセット、負債など様々な項目にインパクトを及ぼします。インパクトが大きくリスクが高いほど、資本コストは上がると投資家は判断します。

 「エネルギー管理」の項目は設備投資への影響が大きく、営業外経費に大きなインパクトを及ぼします。SASBはこの項目について、エネルギー消費量のデータや再生可能エネルギー比率などの指標を定め、企業に開示を求めています。投資家はインパクトと企業の開示結果を把握した上で投資判断ができます。

 バイオテクノロジー・医薬品の例を挙げましょう。重要なESG項目として「入手可能な価格設定」「医薬品へのアクセス」などをSASBは定めています。それぞれに定性的、定量的な指標も設けました。例えば「入手可能な価格設定」では製品の平均売価が2018年から何%上がったかという定量的な記述を求めます。

 投資家はこの開示情報を基に、企業への運用資産の配分比率を変える投資判断ができます。

――米証券取引委員会(SEC)で、SASBスタンダードに基づくESG情報開示の義務化の動きはありますか。

シュミッツユーリット SECは米国の上場企業に年次報告書「Form 10-K」の提出を法的に義務付けています。年次報告書でSASBスタンダードに基づくESG情報を義務化する動きは今のところありません。

 ただ、我々SASBはSECと定期的にコミュニケーションを取っており、SECもSASBの重要性を認識しています。SECは以前から「財務的に重要な項目の開示」を求めていることに加え、投資家のESG情報ニーズの高まりを知っているからです。

 SECが今後、企業のESG情報開示にSASBの枠組みを導入することを検討する可能性は十分あります。前例があります。現在、多くの企業がリスク管理や内部統制に「COSOの枠組み」を活用していますが、そのきっかけはSECコミッショナーが講演で「企業のリスク管理の開示はCOSOの枠組みに従うことが適している」と話したことです。それに従い、多くの上場企業が情報開示するようになりました。SASBスタンダードでも同じことが起きることを期待しています。