TCFD開示を手ほどき

――SASBやGRIなどESG情報開示の枠組みは標準化されていきますか。

SASB(サステナビリティ会計基準審議会)ディレクター、投資家アウトリーチ ケイティ・シュミッツユーリット 氏(写真:中島正之)

シュミッツユーリット 企業が開示する相手は投資家だけではありません。社員や地域社会もあります。投資家にはSASBを、他のステークホルダーにはGRIもよいでしょう。

 それぞれ目的が異なるので統一化の方向には進みませんが、調和は取っていきます。2018年11月、そのための「ベター・アライメント・プロジェクト」が発足しました。SASB、GRI、IIRC(国際統合報告評議会)、CDP、CDSB(気候変動開示審議会)の枠組みを調和させていきます。

 第1段階は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対して、GRIやSASB、IIRCなどの枠組みの関係性をマッピングする作業。2019年9月に報告書を出す予定です。第2段階は2020年にスタートし、それぞれの枠組みで相互参照できる部分や重複している指標を特定し、情報を伝えたい相手やガバナンス手順の違いを見ていきます。

――企業はTCFDの提言に従った開示を始めています。その開示はSASBの枠組みに沿うものになりますか。

■ SASBによるTCFD指南書
SASBがCDSBと共同で発表したTCFD情報開示のための実務ガイド
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シュミッツユーリット TCFDの付録で、評価ツールとして最も言及されているのがSASBです。CDSBも言及されています。2019年5月、SASBとCDSBは共同でTCFD提言に基づく情報開示のための実務ガイダンス「TCFDインプリメンテーション・ガイド」を発表しました。

 TCFDは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの開示を求めていますが、ガバナンスや戦略、リスク管理の進展を示すためには指標が必要です。その際、SASBの指標が役立ちます。企業が「戦略」でエネルギー消費量の削減や再エネ比率の向上を掲げている場合、達成度合いを見るのにSASBの指標が活用できます。

 往々にしてESG評価機関は「○○の方針を持っているか否か」で企業を評価しますが、具体的な活動を知りたい投資家はこれだけでは投資判断に使えません。SASBの開示情報は投資判断に結び付けられます。

ブルームバーグ氏の思いは

――SASBの名誉会長であるブルームバーグ氏はTCFDの座長でもあります。また、SASBの副会長は前SEC会長のメアリー・シャピロ氏。将来的に、SECでSASBに基づく開示が義務化され、TCFD開示もSASBを活用したものになり、ブルームバーグ端末で企業が横並びに評価される。そんな深読みもできます。ブルームバーグ氏の意図はどこにあるのでしょうか。

シュミッツユーリット それはマイケル・ブルームバーグでないと分かりません。彼の代わりに語ることはできません。ただ、データの質の改善に情熱をかけている人物です。ブルームバーグ・サービスの存在理由は投資家に良い情報を提供すること。だから金融安定理事会(FSB)議長のマーク・カーニー氏に頼まれてTCFDの仕事をするようになったのでしょう。そして彼はSASBの会長でもあったということです。

 SASBはTCFDを補完できます。TCFDの提言にはこのスタンダードを使って開示しなさいとは明示的に書いてありませんが、とりわけSASBのことを示唆していると考えています。投資家と企業のコミュニケーションにSASBが広く使われることを期待しています。