相馬 隆宏

環境や社会課題に取り組まない企業は、今後、人材リスクを抱えることになる。「将来世代」の価値観を理解し、取り込んでいくことが、持続的成長につながる。

 「自分の人生を懸ける対象として、社会課題は大きくてよかった」──。生涯、社会事業だけをやると決めた田口一成氏は12年前、ボーダレス・ジャパン(東京都新宿区)を設立した。現在、シェアハウスの運営や革製品の販売など27種類の事業を展開する。例えば、革製品の販売では、未就学や女性といった理由で働く機会を得られなかったバングラデシュの貧困層を雇っている。

生涯を懸けて社会事業を広げると決意したボーダレス・ジャパンの田口一成社長(右)。バングラデシュでは革製品の販売で雇用を生んでいる(左)
(写真:北山 宏一(右)、ボーダレス・ジャパン(左))
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SDGsネイティブは身近にいる

 社会課題に情熱をかけるのは、社会起業家という特別な人だけの話と思うかもしれない。だが、そうではない。田口氏は1980年生まれだが、一般に1981〜96年生まれのミレニアル世代は環境や社会課題に関心が高いといわれ、スタートアップ以外の大手企業にも社会課題の解決を志す若者がいる。

 世界最大の運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンク会長兼CEO(最高経営責任者)は、2019年1月に投資先企業に送ったレターでミレニアル世代について言及している。ミレニアル世代の6割超が、企業の存在意義は利益の創出ではなく社会をより良くすることだと回答している調査結果を引用。優れた人材の獲得に企業理念の明示が必須の条件になりつつあると指摘する。

 ミレニアル世代以降に生まれたZ世代と呼ばれる若者も、環境や社会課題に目を向ける人が少なくない。学校へ行かず、気候変動の危機を訴えるスウェーデンの女子高生グレタ・トゥーンベリさんはその象徴だ。グレタさんに賛同する若者も続々と現れ、学校ストライキへの参加者は世界で100万人を超えたとされる。

 こうした若者は、インターネットが当たり前の環境で育ち、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で日常的に交流することからデジタルネイティブと称される。同様に、SDGs(持続可能な開発目標)の目標にあるような環境や社会課題を自分事として捉えている「SDGsネイティブ」でもある。

 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパンで採用に携わる小田原浩パートナーは、「ソーシャルメディアで情報をリアルタイムに入手し、世の中で何が起きているかにすごく興味を持っている。日本はもちろん海外の紛争や貧困など、環境や社会に関して問題意識を持っている」と言う。

 今後、SDGsネイティブの若者は、労働、消費、投資の面で企業にとって無視できない、持続的成長に欠かせない重要な存在になるだろう。

 そうした中、2019年8月にソーシャルスタートアップの草分けとして知られるユーグレナが発表した内容が大きな話題を呼んでいる。

ユーグレナは新聞広告や動画投稿サイトで、18歳以下の若者を対象にCFO(最高未来責任者)を募集すると告知した
(写真:ユーグレナ)
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 「CFO募集 ただし、18歳以下」──。新聞広告や動画投稿サイトを使って、経営陣に18歳以下の若者を迎え入れると宣言したのだ。CFOといっても、ユーグレナが募集するのはChief Financial Officer(最高財務責任者)ではなく、Chief Future Officer(最高未来責任者)だ。同社は気候変動や貧困問題を解決し、未来を良くするために設立した企業である。2030年や2050年に社会の中心的な存在となる若者が議論に参加していないのはおかしいと考え、CFOの募集に踏み切った。募集開始から約3週間で約150件の応募が来ているという。

 目先の利益など企業の都合に引っ張られると、中長期を見据えた意思決定を先送りしたり、環境や社会課題の解決という本来の目的から離れていったりしないだろうか。ソーシャルスタートアップのユーグレナでさえ、こうした危機感がある。

 永田暁彦副社長は、「今の世の中には、自分じゃない誰かが解決してくれると考えている人が多い。未来の当事者である若者は社会課題を自分事化している。CFOには企業の都合を考えずに、我々をうならせる意見を言ってほしい」と期待する。

 これから企業で重要な役割を担うSDGsネイティブだが、どうやって確保するかが大きな課題となる。有効求人倍率が1973年以来の高水準で推移しており、人材の確保に苦労している企業が多い。

 東京商工リサーチによると、2019年1〜7月に人材不足による企業の倒産が227件に達し、通年では過去最多となる可能性がある。倒産に至らないまでも、正社員の不足を感じている企業は半数を占める(帝国データバンク調べ)。2019年卒業の学生採用について9割以上が厳しかったと回答している(マイナビ調べ)。

■ 人手不足による企業の倒産件数が過去最高に
後継者がいない、人材が獲れない、社員の離職、人件費の高騰といった「人手不足」が原因で倒産する企業が増えている。2019年1〜7月は227件で、通年で過去最多となる可能性がある
(出所:東京商工リサーチ)
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 国内では労働力人口が減り、人材の獲得競争がますます激しくなるのは必至だ。ESGの取り組みを強化することは、ESG投資家の評価を高めるだけでなく、競争力の源泉である優秀な人材を確保するためにも欠かせない。