聞き手/馬場 未希

気候変動対策の将来シナリオを基に、株式市場への影響を試算した。責任投資分野の代弁者として知られるカーライル氏に、注視するESG課題を聞いた。

――HSBCグローバル・アセット・マネジメントは2019年6月末時点で約5073億ドルを運用している。2006年に責任投資原則(PRI)に賛同した。

サンドラ・カーライル
HSBCグローバル・アセット・マネジメント 責任投資 責任者
2017年英HSBCグローバル・アセット・マネジメント入社。HSBC入社以前は、ニュートン・インベストメント・マネジメントで責任投資部門の責任者や米シティの欧州株式営業チームで責任投資チームの立ち上げ、運営を担当した。責任投資に関する業界におけるスポークスパーソンとして知られ、 2016年からは責任投資原則(PRI)のボードメンバー、オックスフォード大学スミス校にて環境に関する研究員(非常勤)を務める(写真:北山 宏一)

サンドラ・カーライル 氏(以下、敬称略) HSBCグループ全社でESG投資に取り組むことに強くコミットしている。低炭素経済へと移行を加速するこの時代に生き残る金融機関グループを目指す。これを実現するため、グループ内の体制を整え、人材も十分に確保している。

 2000年からサステナブル投資ファンドを設定し、20年近くにわたりESGに関わるリスクを認識するノウハウを蓄積し、能力を向上させてきた。産業別や企業別のリスクを、株式だけでなく債券を含むすべての資産クラスで対処できる経験を積んでいる。

――米中貿易摩擦などの影響で経済の減速が指摘される今、投資家、そして投資対象になる企業にとって、ESGに着目するとどのようなメリットがあるか。

カーライル グローバル経済が将来たどる道筋の選択肢の1つが、持続可能な成長を遂げることだ。経済の成長は持続可能であるべきで、その実現には、ESG投資を実践することが有効だ。これしか選択肢がないと考えている。景気が減退するからといって、ESG投資を縮小したりやめたりするというものではない。

 従来、市場はリスクの見極めを得意としている。だが、ESGに関わるリスクについては、いまだ的確に織り込めず、ディスカウント(株価が適正価値よりも割安になること)が起きているのが実情だ。

 市場は往々にして、ミスプライシング(株価と適正価値が乖離すること)を起こすというデメリットがある。ESG投資ならば将来のリスクを的確に把握し、ビジネス機会を獲得できる。

 今、ほとんどの投資家が気候変動への懸念を抱いている。例えば2019年1月、世界経済フォーラムのダボス会議で公表された「グローバルリスク報告書2019年版」では、世界の投資家をはじめとする官民のリーダーたちが、「異常気象」や「気候変動の緩和(対策)と適応の失敗」「自然災害」を、発生の可能性が高いリスクとして認識していることが明らかになった。

 ESG投資は気候変動を含む非常に大きなリスクを把握し、対処することだ。企業には気候変動に関わるビジネス機会もあろう。これを的確に捉えてビジネスの成長に生かせば、投資家にもESG投資の手法によってリスクを特定し、長期で機会につなげられ、メリットが大きい。

――投資家にとって短期ではESGに特段、配慮しない投資の方がリターンを得やすいのではないか。

カーライル リターンを得る時間軸の問題だ。短期でリターンを生む投資もあれば、長期で結果を出していく投資もある。

 業績や財務などのファンダメンタルズが同じなら、持続可能な経営に移行しようとする企業が投資対象として好ましい。気候変動は既に起き、そのインパクトは社会や経済に及んでいる。世界は将来の気象変化を抑える必要があり、早く対処し、戦略的に取り組んだ方が、早くリターンを得られる。投資家としてすぐに行動を起こすことが肝要だ。

――ESGといっても気候変動に限らず様々な課題やテーマがある。HSBCグローバル・アセット・マネジメントの顧客に当たる投資家が今、特に注視するESGのテーマは何か。

カーライル 顧客の最たる関心事は気候変動だ。低炭素型経営を実現するマネジメントの他、水利用の管理、土地利用の管理も課題として浮上している。こうした環境課題への対処はとても重要だ。

 他の関心事としては、気候変動に関わる人的資源のマネジメントも課題である。気象変化によって人の健康が損なわれたり、低炭素社会に移行する中である産業が縮小し失業者が出たりすることもあろう。気候変動の影響を受ける人的資源をどうマネジメントするかが課題だ。

 人的資源のマネジメントは、環境だけでなく社会配慮の観点、性的少数者(LGBT)の配慮を含む従業員と企業の関係性を向上させるためにも、大切なことだ。