聞き手・写真/藤田 香

ESGとROE(自己資本利益率)の総合点が世界一高いノボ ノルディスク。デンマーク製薬大手の同社CEOが、サステナビリティ戦略を語った。

 デンマークの製薬大手ノボ ノルディスクは、糖尿病や肥満症、成長障害、血友病の治療薬を事業の柱とする世界有数の医薬品メーカーだ。糖尿病で亡くなる人は世界で年間400万人に上り、死因トップ10に入る。患者数は約4億6300万人。このうち5400万人がインスリン投与の治療を受けており、うち2920万人に治療薬を提供しているのがノボ ノルディスクである。

 同社はサステナビリティ先進企業としても有名だ。ESG(環境・社会・ガバナンス)評価機関からの評価が高いだけでなく、自己資本利益率(ROE)も79%と高い。日本経済新聞社が2019年8月に実施した世界263社の「ROESG」(ESGスコアとROEを乗じた指標)ランキングでは首位に輝いた。

 ESGへの配慮と収益性の両方を兼ね備える同社の経営について、ラース・F・ヨルゲンセン社長兼CEOと、環境担当シニア・ディレクターのドロシー・ニールセン氏に、デンマーク本社で聞いた。

リサイクルしやすい素材に

――サステナビリティ企業として高い評価を受けています。CEOとして重視しているESGの要素は何ですか。

ラース・F・ヨルゲンセン
ノボ ノルディスク 社長兼CEO
1966年デンマーク生まれ。オーフス大学で経営管理を学び、91年にノボ ノルディスクにヘルスケア分野のエコノミストとして入社。オランダ、米国、日本の支社にも駐在した。ITや品質、経営企画担当のエグゼクティブ・バイス・プレジデントなどを務め、2017年1月から現職

ラース・F・ヨルゲンセン 氏(以下、敬称略) ノボ ノルディスクは経済、環境、社会のバランスを取る「トリプルボトムライン」の経営を進めてきました。トリプルボトムラインは我々のDNAです。環境や社会に配慮することが財務的な強さに結び付き、持続可能なビジネスにつながると信じています。

 ここ数年注力してきたのが再生可能エネルギー。2020年までにすべての生産拠点で使う電力を100%再エネにする目標を立て、2015年に「RE100」(電力を100%再エネにするイニシアティブ)に加盟しました。製薬会社では世界初でした。

――生産拠点のそれぞれでどのように再エネ100%を実現するのですか。

ヨルゲンセン 戦略的な生産拠点はデンマーク、フランス、米国、ブラジル、中国にあります。米国ではメガソーラーを設置できる場所を選び、ノースカロライナ州に工場を建設しました。太陽光設備のデベロッパーと2019年4月に契約を結び、2.7km2の敷地に太陽光パネルを設置する大規模投資を行いました。2020年に稼働します。

 デンマークをはじめとする欧州や中国は風力発電、ブラジルは水力発電の電力を購入します。デンマークでは既存の風力発電会社から購入することに加え、新たにデンマーク最大の洋上風力発電所の電力を購入する長期契約を結びました。2020年1月に契約が発効します。日本の郡山工場ではグリーン電力証書とグリーン熱証書を購入し、既に再エネ100%を実現しています。世界中で間もなく再エネ100%を達成できる見込みです。

――2019年4月には新しい環境戦略「Circular for Zero」を打ち出しました。その狙いは。

ヨルゲンセン 再エネ100%達成のめどが立ったことで、次の環境目標を定めることにしました。R&D、生産、調達などのマネジメントチームと私で議論し、「野心的な目標にしよう」ということで、2030年までに環境負荷ゼロを目指す「Circular for Zero」を設定しました。エネルギーをCO2ニュートラルにし、原材料では資源循環を進め、環境負荷をゼロにします。

 エネルギーでは、営業の輸送や従業員の出張時の飛行機も「CO2ニュートラル」にします。営業車への電気自動車の使用や出張をバーチャル会議に変えるなどの対応を検討しています。資源循環では、リユースやリサイクルが可能な素材への転換を進めます。糖尿病患者が使うインスリンのペン型注入器もバイオ素材に変えられないか検討中です。

 デンマーク本社では2019年2月から、使い捨てプラスチックを一切使わないことも決めました。エレン・マッカーサー財団が進めるサーキュラーエコノミーのイニシアティブ「CE100」にも製薬会社として初めて加盟しました。

――環境負荷をゼロにするのは大変な作業です。具体的な取り組み事例をもう少し教えてください。

ドロシー・ニールセン 氏(以下、敬称略) 例えばコペンハーゲン郊外にあるカロンボー工場におけるインスリン製造の発酵工程では、使用した酵母の廃棄物からバイオガスをつくり、バイオマスエネルギーとして活用しています。これもサーキュラーエコノミーの例でしょう。

 紙パック入りの水も一例です。我々は使い捨てプラスチックの使用をやめただけではなく、使い捨ての歯ブラシやカップ、蓋、ナイフ、フォーク、皿、食品パッケージ、ペットボトル入りの水、風船なども段階的に使わないと決めました。

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ノボ ノルディスクは80カ国に4万2200人の社員を抱え、170カ国で製品を販売している。2018年の売上高は1118億デンマーククローネ(約1兆8000億円)、営業利益は472億デンマーククローネ(7592億円)。写真の左はインスリン製造工場、右はペン型注入器
(写真:ノボ ノルディスク提供(上2点))
FSC(森林管理協議会)認証の紙パック入りの水
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