10〜15年先を見て経営

――どのようなスケジュール感でリサイクル可能な素材に切り替えますか。

ドロシー・ニールセン
ノボ ノルディスクの環境戦略シニア・ディレクター。環境戦略と環境フットプリントの責任者。サステナビリティ分野で15年間活躍した後、2013年にノボ ノルディスクに入社し、新しい環境戦略「Circular for Zero」の策定を主導した

ニールセン オフィスのテーブルや椅子などの備品も含めると、1次サプライヤーは6万社に上ります。バイオ素材や、リユースやリサイクルできる素材に切り替えることを考えていますが、それぞれで異なるソリューションが必要で、サプライヤーとの協力が欠かせません。

 現時点では、インスリンのペン型注入器などの薬剤デバイスはリサイクルできる素材になっていません。患者さんが扱う製品であるため、変更を加える際には注意を要しますが、どうしたらリサイクル可能にできるか検討していきます。

 製品開発時にも、再利用やリサイクルしやすい設計にします。ペン型注入器を、部品ごとに分解できるようにすることも検討しています。素材の種類を減らすのも一案です。現状は5〜10の素材が使われていますが、これを例えば2つの素材に減らせれば、リサイクルしやすいでしょう。まずは、ペン型注入器の50%の素材をリサイクルできる素材に変えるところからスタートしたいです。

――社会への配慮にも力を入れています。途上国における医薬品へのアクセス貢献度ランキング「Access to Medicine」は2018年に6位でした。

ヨルゲンセン 途上国には薬を購入できない貧しい人々がいます。私たちは国連などと協力し、先進国の価格の20%以下の価格を保証してインスリンを提供しています。2018年からは赤十字と提携し、人道的危機にある地域の糖尿病患者をケアする活動も始めました。

――何年先を見て経営していますか。投資家は理解してくれるでしょうか。

ヨルゲンセン 薬は研究開発から発売までに15年かかるため、長期的な思考が必要です。1万個のアイデアから製品につながるのは1つ。平均的な開発コストは26億ドル(2825億円)に上ります。ですから10〜15年先を見据え、短期と長期のバランスを取りながら経営しています。

 多くの株主は5年先しか見ていないので、四半期の決算説明の際には、R&Dへの投資や長期計画を丁寧に説明します。株主はトリプルボトムラインやサステナブルな取り組みに理解を示してくれています。

――R&Dや革新的技術への投資をどう進めていますか。

ヨルゲンセン 会社の長期的価値の創造にはイノベーションの推進が重要です。2018年に英国のサイロという会社を買収しました。同社は、血糖値が上昇した時にのみインスリンが出る「グルコース応答性インスリン」の技術を持っています。インスリン治療薬には、投与しすぎると低血糖になるリスクがあります。グルコース応答性インスリンは低血糖リスクを解決し、糖尿病治療を変革する技術です。これにより新技術の研究開発が加速しました。

 当社の薬は注入剤ですが、経口薬を好む国もあります。例えば日本。当社の糖尿病治療薬は世界の各地域でシェア1位ですが、日本では3位。注入剤に抵抗があるからです。日本は米国、中国に次ぐ市場です。経口薬を開発し、2019年から承認申請を始めました。今後、日本でも市場拡大を期待しています。

――サステナビリティの先進企業として、ガバナンスを効かせる重要ポイントを教えてください。

ヨルゲンセン 危険なのは権力の集中です。取締役会が独立して経営陣を監督し、力を偏らせないこと。当社ではCEOである私も取締役会にリポートを求められます。監査委員会、指名委員会、報酬委員会、研究開発委員会を設けて監督しています。さらに、社内に監査システムを整備し、財務的な監査や企業倫理の監査などを行っています。

 加えて、社員に対してノボ ノルディスクの企業文化を根付かせるユニークな監査も行っています。トリプルボトムラインに従うことなどを盛り込み、社員の行動指針となっている「ノボ ノルディスク・ウェイ」を策定し、社員がこの指針に沿って行動しているかを監査するチームをつくっています。

 このチームは世界の社員を順に回ってヒアリングします。ノボ ノルディスク・ウェイに沿った取り組みや価値創出の事例を社員に説明してもらうことで、社員が企業価値創出を自ら考える仕組みにしています。

ノボ ノルディスク 社長兼CEO ラース・F・ヨルゲンセン 氏