額縁の中の企業理念ではなく

青井 継続して成長されている花王さんがそういうふうにできるというのが、僕は本当にす素晴らしいと思っています。当社は1回本当に潰れそうになったので、跳ぶしかなかったのです。

 私が一番教えていただきたいことなのですが、例えば「World's Most Ethical Companies」に14年連続で選定されている日本企業は花王さんだけだと伺っています。恐らく花王さんの企業理念が額縁の中ではなくて、実際に日々のビジネス、社員一人ひとりの中に息づいている。私は企業文化と呼びたいのですが、ESGの基盤になる企業文化をどう培われてきたのでしょうか。

澤田 2020年は花王石鹸を発売して130周年という記念の年なんですけれど、実際には長瀬商店がその3年前にスタートしていて、創業という意味では133年目になります。この長きにわたって常に創業者の思いが脈々とつながっていっています。創業者の長瀬富郎が次にバトンタッチをするときに、遺書的なものを残していきました。「天祐ハ常ニ道ヲ正シテ待ツベシ」。事業というのはそんなに簡単にはできない。単に一生懸命やっているだけではなく、正道を歩んでいくとチャンスに巡り合うことができるという意味です。これが、われわれの企業理念の骨格になっています。

 もちろん、正道を外すことに近い部分だってゼロではないと思うんです。例えばハラスメントにしてもゼロではないと思いますが、会社が大きくこける前に何とか食い止めてきているということは、迷ったときには原点回帰、その原点というのはやはり企業理念だと。それが花王の企業文化を形成しているのではないかなと思います。

■ 花王グループの企業理念「花王ウェイ」
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青井 企業理念のど真ん中に創業者の思いがあるんですね。顧客の動きをしっかりと見ることが、企業にとって「正道を歩む」ことの1つだと思います。「消費者起点」は経営者だったら誰もがおっしゃることですが、実際の行動を伴わない企業も多いのではないでしょうか。しかし花王さんの場合には、かなり以前から消費者起点が企業文化、企業の体質として根付いている印象があります。これはどのようにして出来上がってきたものなのでしょうか。

澤田 恐らく花王石鹸の発売がそれを物語っているのではないかなと思います。

 130年前の当時、海外から来る石鹸は顔を洗えるくらい品質が良かったんですが、国内の石鹸は一応泡が立って汚れは落ちるけれども、顔を洗えるレベルではなかった。ひりひりして痛かったらしいです。庶民が買えるくらいの価格で、海外から来る石鹸を凌駕する品質のものを作ろうというので花王石鹸が誕生したんです。あの当時からたくさんの方々にいいものを使っていただこうという精神がずっと続いています。われわれの「行動原則」の中にも「消費者起点」というのがあります。それから「使命」の中にも、消費者・顧客の立場に立った、心をこめたよきモノづくりがあります。ずっとこれを言い続けてやってきました。だけど、けっこう失敗もしているんですよ、実際は。