ESG経営で会社を倒産の危機から成長軌道に復活させた丸井グループ(日経ESG2020年1月号特集記事を参照)・青井浩代表取締役社長が、ESG経営の更なる普及のために各分野の達人にESGの神髄を聞く

澤田社長がこだわる「本質」とESGにはどのようなつながりがあるのか。そして、ESG経営でのリーダーシップの在り方を聞く。

技術革新には表と裏がある

青井 澤田社長はよく「本質」や「本質追求」という言葉を使われます。

澤田 道隆(さわだ・みちたか)
花王 代表取締役 社長 執行役員
1955年生まれ、大阪府出身。81年大阪大学大学院工学研究科修 了後、花王に入社。2006年に執行役員 研究開発 部門副統括に就任、08年取締役、12年に代表取締 役社長執行役員(現職)、研究所長時代、ベビー用 紙おむつ「メリーズ」の再生を指揮(写真:鈴木愛子)

澤田 自分が研究者であることもあると思うのですが、研究開発は本質を意識することが大切だと感じています。いろいろな研究をしていると、中には小手先になってしまうケースがあります。例えば皮膚研究です。皮膚の本質を見ないで、いいと思う商品を作ることに走ってしまうことがあります。悪くはないけれども、本当にいいものではない。時間がかかるものだから、ついつい本質を横に置いて考えてしまう部分があるので、それを意識させるように「本質」という言葉を使っています。

 そのルーツは私が大学院生、まだ入社する前にあります。「花王の中興の祖」と呼ばれる4代前の丸田芳郎社長と一対一で話をさせてもらう機会がありました。当時、父親が花王に在籍していて、息子が化学の勉強をしていると知り、「ちょっと呼べ」ということになって。大阪支社で1時間、面会しました。

 「君は化学の何が面白い?」と聞かれ、「色が変わったり、形が変わったり、違うものを合わせるとまた違うものができたりということがすごく面白い」と答えました。すると、「それは本質を見ていない。君が本当に化学をやりたいなら量子化学を勉強しろ」と言われました。分子、原子の世界が化学の本質であり、目先の面白さにとらわれては駄目だということです。しかし、量子化学はものすごく難しい。分子、原子は見えない世界だから、頭の中だけで考えなければならないですからね。丸田社長はこう言いました。

 「君がきょとんとしているのは分かる。やりたくないというのも分かる。しかし、私は社長になってずっとこう考えている。化学は素晴らしい学問で、いろいろと社会を変えてきた。しかし表だけを見たら駄目だ。分子、原子がどういうふうに絡み合っているのかを考えることが大切だ。いずれ最先端の技術で、頭で考えなくても答えが出るようになる」。それが今の量子コンピューターですよね。当時から既に予見していたわけです。この時が本質を考えなくてはいけないと思い始めた最初です。

 なぜESGなのかについて先ほど「企業価値の向上」や「エシカルな動きについていく」という理由を挙げましたが、もう1つの理由があります。実はこちらの方が本質的かもしれません。われわれは技術革新の会社です。技術を革新して、それを基にイノベーション、社会の変革を起こす会社だと思っています。ですから、約8000人いる花王(単体)の社員のうち約2500人が研究員です。そして、技術革新を進めていくと、本質的な部分でESGと必ずつながります。

 技術革新は、ある意味、表の部分が先行します。例えば石油や石炭は世の中を便利にしましたよね。それからプラスチックも。しかし、数十年単位で遅れて裏の部分が明らかになる。化石資源を使い過ぎると地球温暖化に結びつくし、プラスチックを使い過ぎるとごみ問題が起きます。すなわち、裏の部分というのは今、ESGの課題になっていることです。技術革新を生業にする会社としてESGの本質を考えることは、表と裏を最初から考えた技術革新をしなくてはいけないということです。ごみ問題も脱炭素も最初から考慮に入れて技術設計、商品開発設計を行うことが重要なのです。

■ プラスチック循環社会に向けて
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青井 素晴らしいですね。感動してしまいました。花王さんのコアである技術革新とESGが本質の部分で重なっている。

澤田 技術革新というとどうしても良い部分だけに目がいってしまいますが、今はそのしっぺ返しを思いきり食らっていますよね。