日本政策投資銀行 執行役員 産業調査本部副本部長 竹ケ原 啓介氏

竹ケ原 啓介氏
日本政策投資銀行 執行役員 産業調査本部副本部長(写真:清水 真帆呂)

 2019年10月にTCFDコンソーシアムが公表した「グリーン投資ガイダンス」(GIG)。その目的は、TCFDのガイダンスに沿って企業が開示する情報を、金融機関や投資家が正しく使いこなし、ESG投資につなげることにあります。

 産業界からはフレームワーク疲れの声も聞こえてきます。数年前にIIRCによる統合報告のフレームが導入されたばかりなのに今度はTCFDかと。

 実際には、TCFDは従来のフレームワークを上書きするものではなく、過去の議論の延長上にあるものです。下図を見ても明らかなように、フレームワーク同士の議論は決して対立関係にあるのではなく、IIRC統合報告のための議論の多くがTCFDにそのまま使えるのです。さらに、TCFDの議論でつくり上げた大枠のフレームの上に、SASBの業界別の基準による詳細な説明を加えればいいのです。

 TCFDによって追加された新しい論点を中心にして、開示情報をどう読み解いていくか。ここに、GIGの主眼があります。

■ TCFDは過去の議論の延長上にある
GIGの主眼は、TCFDによって追加された新たな論点を中心に、開示情報をどう読み解くかという視点を提示すること
(出所:日本政策投資銀行 竹ケ原啓介氏の講演資料より)
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戦略とシナリオの整合性を問う

 GIGの活用ポイントについて、4つの項目を軸に説明していきます。金融機関や投資家はどこを見るべきか。企業はどう対応すべきか。

 1つ目は、ガバナンス。これは、気候変動に対応する組織体制が実質的に機能しているかどうかがポイントです。社内に環境委員会やコーポレートガバナンスコードを設けました、という形式的な話ではなく、実態がどうなのかということ。環境に関わるテーマがきちんと取締役会などで議論され、トップのコミットメントがあるのか。

 2つ目は、戦略とビジネスモデル。企業からは、様々なシナリオを開示したところで、一番都合の悪いシナリオで評価されるのではと心配する声も聞かれますが、金融機関もすべてのシナリオを精緻に分析する余裕はありません。では、何がポイントかというと、経営戦略の議論の中に、シナリオがきちんと落とし込まれているかどうかです。どのシナリオを用いたかより、そのシナリオを適切に用いて説得性・妥当性のあるストーリーを示せているかどうかです。

 3つ目は、リスクと機会。両者のバランスの取れた企業評価を行うことがポイントです。特にビジネス機会、気候変動対策として取り組むイノベーションの重要性を認識し、長期戦略との整合性が取れているかを見る。イノベーションをリアルに語り、進ちょくをしっかりと見える化しているか。

 最後の4つ目は、KPI(重要な成果指標)です。投資家に対しては、KPIを使って企業を比較評価する際には、業種特性を考慮することを求めています。例えば、温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標では、海外も含めた事業のバリューチェーン全体の排出量や、製品やサービスの利用時における削減貢献量なども含めた総合的な評価を求めています。

「変革の種」を見逃すな

 欧米ではタクソノミーのような「カタログ作り」の動きが進んでいますが、やや危険な面があります。ここから先はグリーン、それ以外はブラウンという産業セクターの区分けは、投資の世界ではダイベストメント、ネガティブスクリーニングに使われる恐れがあります。ブラウンだからと切り捨てられたセクターの中に「イノベーションの種」が埋もれてしまうかもしれません。

 これに対してTCFDは任意開示のフレームワークです。たとえ今、ブラウンに分類されているセクターに属する企業であっても、低炭素経済への移行に向けた戦略や変革へのストーリーをTCFDによってしっかりと描くことができるのです。投資家はそのあたりを見定め、育てていくべきではないかと思うのです。

 結局、GIGの要諦とは何かというと、個々の企業の実態に即して、リスクとリターンを気候変動という側面から観察、評価すること。それが投資家や金融機関に求められている視点です。逆に企業は、そうした投資家の視点を意識しながら、自社の情報開示にGIGを活用していただければと思います。