ロイドレジスタージャパン 取締役 冨田 秀実 氏

冨田 秀実氏
ロイドレジスタージャパン取締役(写真:木村 輝)

 今後、サステナビリティ情報開示の基準はどうなるのか。いくつかの方向性について紹介していきます。

 まず1つ目はGRIのガイドライン。全ての企業や組織が使うべき共通スタンダードと、企業や組織がそれぞれにとって重要(マテリアル)な課題を選択して使う「経済・環境・社会」の3分野のスタンダードで構成されています。

 2つ目はIIRCの統合報告のフレームワーク。その特徴は「価値創造プロセス」にあります。財務資本や自然資本など6つの資本を使ってどんな価値を生みだしていくか、そのプロセスとなる手法とビジネスモデルを非常に重要視しています。

 3つ目はSASB。特徴は、業種セクター別に細かいスタンダードを発行していること。例えばアパレルのセクターでは、「製品の中の化学物質の管理」や「サプライチェーンの労働基準」など4つの項目が決められています。

2つのマテリアリティを意識

 複数のフレームワーク間に生じる「混乱」の原因の1つが、マテリアリティ(重点課題)の定義です。

 SASBの定義は、「投資家の意思決定にどんな影響を与えるか」。一方でGRIの定義は、「世の中(経済、環境、社会)にどんな影響を与えるか」。一番分かりにくいのがIIRCで、「企業(組織)の価値創造能力にどんな影響を与えるか」。SASBとGRIの両方の要素がありそうです。

 こうした「混乱」に対する1つの答えと言えるのが、欧州の気候変動関連情報に対するガイドラインが導入した「ダブル・マテリアリティ」という考え方です。

 下図のように、企業と世の中(経済・環境・社会)があるとして、例えば気候変動問題が起きたとき、「企業に及ぶ財務的な影響」を重視するのが、財務的マテリアリティ。TCFDやSASBがこれに当たります。一方で、「企業が世の中に与える影響(インパクト)」を重視するのが、環境・社会的マテリアリティ。GRIや人権に関する「国連指導原則報告フレームワーク」もこの発想ですし、SDGsの関心事もここにあると考えられます。

 ダブル・マテリアリティとは、財務的マテリアリティと環境・社会的マテリアリティの両方を重視しようという考え方で、両者の重なり部分は大きくなる方向にあるといえます。

■ 2つのマテリアリティを使い分ける
気候変動問題などが起きたとき、「企業に及ぶ財務的な影響」を重視するのが、財務的マテリアリティ。TCFDやSASBがこの発想に当たる。一方、「企業が世の中に与える影響(インパクト)」を重視するのが、環境・社会的マテリアリティ。GRIや人権に関する「国連指導原則報告フレームワーク」(UNGP Reporting Framework)、SDGsなどがこの発想。IIRCは両方の要素があると考えられる
(出所:ロイドレジスタージャパン冨田秀実氏の講演資料より)
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インパクトをどう開示するか

 結局、何がサステナビリティ情報開示の要諦かというと、誰に(ステークホルダー)・何を(コンテンツ)・どのように(媒体)開⽰するのかを明確にすることです。読者が投資家なのか、あるいは評価機関、取引先、NGO、社員なのか。それぞれが必要とする情報は違いますから、読者を特定した上で、サステナビリティ・レポートにするか、統合報告にするかといった媒体のすみ分けを考える、もしくは媒体間の整合性を考えるといいでしょう。

 媒体を整理・統合する上で重要なのは、マテリアリティをどう定義するかです。財務面、あるいは環境・社会面を重視するかによってKPIも違ってくるはずです。

 最近、投資の世界では「リスク・リターン・インパクト」といわれます。リスク・リターンは財務的、インパクトは環境・社会的なマテリアリティにつながります。

 今後の課題は、SDGs的なインパクト(社会的な貢献)をどう開示していくか。2030年が近づくにつれ、社会の持続可能性にどれだけ貢献したかが問われます。活動内容のアウトプットだけではなく、アウトカムやインパクトをどう開示するかを念頭に置く必要があります。