投資のプロを議長に

 オリンパスと同様に、取締役会に「投資家の目」を入れる取り組みを進めているのが富士通である。19年6月に、取締役会議長に産業創成アドバイザリー代表取締役の阿部敦氏を据えた。これまで同社の取締役会議長は会長が務めることになっていたが、取締役会規則を変えて社外取締役が就けるようにした。

 阿部氏はかつて、IT革命に沸く米国シリコンバレーを舞台に株式上場の主幹事やM&A(合併・買収)を手がける米投資銀行の花形バンカーだった。その後、JPモルガン・パートナーズ・アジア(現ユニタス・キャピタル)で投資ファンド事業を手がけるなど、「投資の助言者」と「投資の当事者」として現場を渡り歩いてきた。

 15年に富士通の社外取締役に就任すると、投資家から阿部氏に直接、対話の申し込みが来るようになった。現在も月に1〜2回は、海外投資家と対話をしているという。

 富士通が17年に投資家向けに開催したESG説明会では、社外取締役として阿部氏が説明役を買って出た。そのとき、投資家からこのような質問が投げかけられた。「阿部氏の社外取締役としての立場は、投資家側のポジションに近いのか、それとも会社側のポジションに近いのか」。それに対して阿部氏はこう答えた。「当社はESGを重視している。ただ、私個人は株主の視点を大事にすべきだと思っている。私は、株主の視点から見たらこちらの決断がベターだというような発言をよくする」。

 例えば、阿部氏が議長を務める取締役会で、このように切り出す。「富士通は自己資本比率40%を目指しているが、投資家は資本コストが上昇することに懸念を抱いている」。自身が海外投資家との対話で得た投資家の疑問を取締役会の場にぶつけ、議論を引っ張る。

 阿部氏は、「富士通の経営戦略を投資家にもっと理解してもらう必要がある。情報開示を充実させれば、富士通の株価は2倍になる」と語る(次ページ囲み記事)。

100日間で何をする?

富士通の時田隆仁社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 富士通は19年6月、時田隆仁氏が社長に就いた。時田氏が社長に就任して初めてとなる19年7月末の取締役会で、阿部氏は時田社長ら3人の執行陣にこう言った。「就任から約1カ月が経った。君たちはこの30日間で何をした。そして、これから100日間で何をする」。

 これは、企業買収後などによく使われる「100日プラン」と呼ばれる手法だ。経営陣や従業員との間で戦略やビジョンを共有し、具体的なアクションプランに落とし込む。これまで数々のM&Aを手がけてきた阿部氏の手腕が取締役会の場面で生かされている。

 19年9月26日、時田社長が臨んだ経営方針説明会で、「IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業へ転換する」という新戦略を打ち出した。この新戦略も、阿部氏をはじめとする社外取締役によって揉まれたものだ。

 発表に立った時田社長の姿は、スーツにネクタイではなく、シャツにジャケット姿だった。これも時田社長による変革の1つだ。「格好だけと言われるかもしれない。それでもやれ」。阿部氏は取締役会で、時田社長の背中を押した。

 技術の進歩が速いIT業界で勝ち残るには、変革のスピードが欠かせない。取締役会をリードする社外取締役が、変革の推進役となっている。