聞き手/相馬 隆宏

脱炭素社会の実現には、あらゆる企業がCO2の排出削減に取り組む必要がある。CO2排出量が多い企業の脱炭素化を支援する「トランジションボンド」に注目が集まる。

――アクサ・インベストメント・マネージャーズは2019年6月、「トランジション(移行)ボンド」を提唱し、ガイドラインを公表しました。脱炭素へ段階的に移行しようとしている企業に資金を提供する債券がなぜ必要なのですか。

マット・クリステンセン 氏(以下、敬称略) 欧州連合(EU)として、社会全体を脱炭素に変えることを目指しています。現在はCO2排出量が多いブラウンな企業を、CO2排出量が少ないグリーンな企業にどう変えていくかが重要です。トランジションボンドを提唱する背景には、これから段階的にグリーンに移行しようとしている企業を支援したいという考えがあります。

 再生可能エネルギーの導入などグリーンな取り組みに調達した資金を使うグリーンボンドは領域が狭いです。しかし、今はグリーンでなくてもこれからグリーンに移行するための資金ニーズはあります。トランジションボンドはそのニーズに応えるものです。

1億ユーロを調達

――トランジションボンドは、どんな取り組みが対象になるのですか。

マット・クリステンセン氏
仏アクサ・インベストメント・マネージャーズ 責任投資・グローバル統括責任者
マルチアセット・クライアント・ソリューション(MACS)の責任投資・グローバル統括責任者として、2011年アクサ・インベストメント・マネージャーズ入社。以来、様々なアセットクラスおよびマルチアセット・ソリューションに関するインパクト投資プログラムの開発や、ESG基準の統合の指揮・実行・監督を手掛ける(写真:鈴木 愛子)

クリステンセン 例えば、海運業界の場合、LNG(液化天然ガス)船を導入して、化石燃料から天然ガスに燃料を置き換えるといった取り組みが挙げられます。今、化石燃料を使っていればグリーンボンドの対象にはなり得ません。トランジションボンドは、グリーンに移行するための一助になります。

 グリーンボンドの発行が増えていますが、ブラウンからグリーンに変えるための資金ニーズがこれから大きくなるとみています。

――トランジションボンドを提唱してから、どんな反響がありましたか。近く実現する見通しはありますか。

クリステンセン 投資家からはかなり問い合わせがありました。競合他社はそんなもの必要ないと冷ややかな反応でしたが、規制当局も関心を持っています。タクソノミー(投融資の際に持続可能な事業かどうかを判断するためのEU独自の分類)にどう影響するかを中心に話を聞きたいと言います。

 19年10月には、グリーンボンド原則の策定などを手掛ける国際資本市場協会(ICMA)に、トランジションボンドを扱うワーキンググループが設置されました。銀行や年金基金、運用機関と共に、トランジションボンドという考え方によって、社会全体をよりグリーンな方向にもっていくために金融業界として何ができるかについて話し合いが進んでいます。

 ワーキングループでは、今後、企業が調達した資金をグリーンへの移行のために使ったかどうかを示すのか、それとも具体的に何に使ったかまで示さなくてもいいとするのか、アプローチの仕方について議論することになるでしょう。

 そうした中、11月27日にトランジションボンドが実際に発行されました。発行額は1億ユーロ(約120億円)です(編集部注:仏クレディ・アグリコル・CIBは仏アクサグループと提携し、LNG船への切り替えなどを使途とするトランジションボンドを発行した。償還期間は10年、利率は0.55%)。

 9月に伊エネルが発行した「SDGs連動ボンド」(資金使途をSDGsに関連したプロジェクトに限定した社債)も考え方は似ていますが、トランジションボンドと名前が付いたのは初めてです。

■ 「トランジションボンド」とは
出所:アクサ・インベストメント・マネージャーズの資料を基に作成
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