「売らない店」へ進化

 2019年3月期に計画通り定借化を完了させ、現在、取り組んでいるのが「売らない店」づくりである。アマゾンをはじめとするネット通販との競争が激しさを増す中、実店舗は物を売る場ではなく、体感・体験を提供する場として差別化を狙う。

 LTVを拡大する上で大事なのは、売り場の魅力を高めて集客を増やし、クレジットカードの新規会員を獲得することである。丸井グループは、クレジットカードの利用実績を基に限度額を徐々に引き上げるなど、独自の与信ノウハウを武器に、学生や年収の低い若手社員らを取り込む。店舗にはクレジットカードを即日発行できるカウンターを備えているため、来店客がその場で入会しやすい。クレジットカード会員の年齢構成は30代以下が過半を占める。

 売らない店づくりの中核として位置付けているのが、D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)と呼ばれる商品をネットで直接販売する事業者である。商品をネットでしか買えないため、商品に実際に触れたり、試したりできる場は顧客と事業者の双方にとってメリットがある。

 「リボ・分割払いや家賃の支払いなどが必要なのは、高齢の富裕層ではなくこれから収入が増えていく若い人たちだ。D2Cの商品を買うのも若い人が多く、丸井グループのクレジットカード会員の属性と合っている」(野村證券の青木氏)

 丸井グループは、テナントが売り上げに応じて支払う賃料の割合を低く抑えているため、D2Cの事業者を誘致しやすい。テナントの一社が、主に20〜30代のビジネスパーソン向けにオーダーメードのスーツをネットで販売するFABRIC TOKYO(東京都渋谷区)だ。現在、丸井グループの店舗に7店出している。森雄一郎社長は、「日本は売り上げに応じた賃料を求める昔ながらの百貨店モデルが多い。ネットで売り上げが立つ当社とは相いれない」と話す。

 オンラインショップの運営支援を手がけるBASEの山村兼司COO(最高執行責任者)は、「丸井グループの店舗は立地がすごくいい。当社のEC(電子商取引)プラットフォームを利用するオンラインショップの多くが、丸井に出店した後、売り上げを伸ばしている」と言う。

 丸井グループは2018年4月、BASEと資本業務提携し、同年6月から渋谷マルイにBASEの常設店舗を開設した。1階の入り口からすぐの一等地に売り場を構える。ファッションや雑貨、食など、3〜7日間のサイクルで売り場が入れ替わる。

 こうしたD2C事業者との連携による「売らない店」づくりは、新規顧客の開拓に有効な仕掛けになる。

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オーダーメードのスーツをネットで販売するFABRIC TOKYOの売り場(左)。採寸や生地に触れる場としての役割を担う。オンラインショップの運営を支援するBASEの売り場(右)。店内の一等地に構える(写真:丸井グループ)

 成長を続ける丸井グループの経営には「共創」の考え方がある。企業価値は、顧客や取引先、社員、投資家などステークホルダー(利害関係者)と共に創るというスタンスを取る。

「日経ESG」(2020年1月号)では、青井浩社長のインタビューや現場の取り組みを基に、「共創経営」の実像を詳しく紹介しています。